受賞者コメント

成果報告によせて - 2017年度受賞者から

(受付順、敬称略)

脂肪細胞の形質制御における代謝エピジェネティクス

稲垣 毅(群馬大学 生体調節研究所・教授)

肥満症や糖尿病といった生活習慣病は、遺伝要因と環境要因によって発症する。しかしながら、生体がさらされてきた外部環境がどのように細胞に記憶されているかの分子機構は不明な点が多い。エピゲノムはゲノム配列によらない遺伝子発現の制御機構であり、可塑性が高いシステムであるため、外部環境を記憶するシステムとして優れていると考えられている。今回、エピゲノム酵素の働きの制御に関わる細胞中の代謝物濃度を測定する方法を立ち上げ、さらにヒストン修飾というエピゲノムマークを網羅的に解析する手法を立ち上げることで、代謝環境のエピゲノム記憶を制御する機構に迫った。その結果、肥満症と関連が深い脂肪細胞分化の過程で、代謝物濃度とエピゲノムの変化が見いだされた。

超解像度ケミカルイメージング顕微鏡の創成

高橋 康史(金沢大学・准教授)

細胞―細胞間のコミュニケーションや細胞の代謝により、細胞近傍の化学物質の濃度プロファイルは時々刻々と変化している。そのため、この細胞表面の化学物質の濃度プロファイルを捉えることは、非常に重要である。しかし、一般的に利用されている化学物質のセンシング技術は、位置情報と時間情報が失われた状態で計測が行われている。その一つの理由として、化学センサーの感度と、非常に柔らかい細胞近傍にセンサーを配置することが困難なためである。そこで、走査型プローブ顕微鏡のプローブとして、微小な電極やナノピペットに化学修飾を施したケミカルセンサーを用いることで、細胞近傍の化学物質の濃度プロファイルを形状方法とともに3次元的に取得した。

体の前後軸形成における下半身の位置を決めるバウプランの分子実体の解明

鈴木 孝幸(名古屋大学・講師)

私たち人を含む脊椎動物は体の中心に背骨を持っており、頭から頸椎、胸椎、腰椎、仙椎、尾椎に分けられる。興味深い事に、私たちの体の下半身には、仙椎の位置に後ろ足や生殖器、腎臓などの臓器があり、これらの器官の場所はどの動物においても同じである。今回我々は、このような下半身の位置がそれぞれの動物で異なりながらも、何故下半身に位置する器官の位置関係が保存されているのか、そのメカニズムを明らかにすることを試みた。その結果、Gdf11という1つの遺伝子が働くタイミングを生み出す機構がそれぞれの動物で異なることが、ヘビのような特異な体の形を生み出していることが明らかとなった。

視床下部と末梢臓器を結ぶ、糖代謝を制御する神経回路の解明

近藤 邦生(生理学研究所・助教)

脳の視床下部は体内の血糖値を一定の値に保つために重要な働きをしています。そのために視床下部は、白色脂肪から分泌されるレプチンなどの様々な体内・体外のシグナルを受け取り、末梢組織の糖の産生・消費をコントロールしています。今回私は、視床下部から糖の消費を担う2つの末梢組織(骨格筋・褐色脂肪)へシグナルが送られる際に使われる神経回路網の構造を明らかにしました。今回明らかになった神経回路の機能を解明することで、将来的に糖尿病や肥満の治療法の開発につなげていきたいと考えています。

アロマターゼ阻害薬治療を受けた転移性乳がん患者における血中循環腫瘍ゲノムの解析

ロー シューキー(公益財団法人がん研究会 がん研究所・グループリーダー)

これまで、診断目的のためにがん患者から生検を得る方法として、侵襲的な針による生検が行われることが多かった。しかしながら、この侵襲的な方法は複数回実行することは難しい。また、がんは非常に不均一であり、そして腫瘍のプロファイルは経時的に変化するため、原発腫瘍からの生検は、腫瘍における特定の時点でのゲノムプロファイルのみしか反映されないことになる。一方で、リキッドバイオプシー、特にctDNAは、血液、尿、脳脊髄液および唾液から抽出することができる。 ctDNAから得られるゲノムプロファイルは、非侵襲的で迅速かつ複数回入手することができることから、とても重宝されている。
本研究では、先進的である次世代シーケンシング技術を用い、血漿(血液サンプル)からの変異を検出することを目的とした。我々はこの研究から、血漿中に1つ以上の変異を有する20/26人の進行性乳がん患者を検出した(検出率:77%)。がんに関連する突然変異は全部で44個検出され、このうちESR1遺伝子の突然変異は薬剤耐性と関連があることが知られている。ctDNAのモニタリングは、病状のモニタリング、薬剤耐性および臨床的再発の早期発見に有用なツールである。

骨粗鬆症克服を目指した新たな骨芽細胞シグナルネットワークの解明

松本 佳則(岡山大学・助教)

健康で豊かな長寿社会を実現させる為には、骨粗鬆症の予防、改善が急務です。50歳以上の日本人女性の3割が骨折や寝たきりの原因となる骨粗鬆症を発症する為、骨形成、骨吸収を担う骨芽細胞及び破骨細胞を制御する機序の解明は骨粗鬆症の克服に必須の研究テーマですが、未だその詳細は不明です。本研究では、骨形成を担当する骨芽細胞の新たな制御機構を明らかにしました。更なる研究を積み重ね、骨粗鬆症の治療へと応用出来るよう、今後も精進致します。

心臓細胞アトラスによる循環恒常性制御機構の解明

野村 征太郎(東京大学医学部附属病院・特任助教)

【背景】
心臓に高血圧などの負荷がかかると心臓は肥大してポンプ機能を維持しようとしますが、負荷が持続すると心機能が低下して心不全を発症します。しかし、これまでその詳細なメカニズムはわかりませんでした。
【目的】
心筋シングルセル解析により心不全発症メカニズムを明らかにする。
【結果】
我々は、シングルセル解析・機械学習により世界で初めて心筋リモデリングの過程における分子プロファイルの挙動を明らかにしました。その結果、心筋細胞の肥大化にはミトコンドリア生合成の活性化が重要であること、肥大心筋細胞は代償性心筋細胞と不全心筋細胞へと分岐すること、不全心筋細胞への誘導にはDNA損傷(DNAに傷が入ること)とがん抑制遺伝子であるp53の活性化が重要であることを明らかにしました。さらに、遺伝子発現パターンから患者の予後・治療応答性を予測できることを実証しました。
【今後の発展性】
明らかとなった分子メカニズムを標的として心不全の新しい治療法の開発が進むと考えられます。また本研究の成果は、あらゆる心臓疾患の病態の解明に役立つだけでなく、個々の心不全患者さんの治療方針を決める上で実際の臨床の現場に応用されることが期待され、これにより循環器疾患の精密医療(個別化医療)が実現すると考えられます。

新規臓器欠損モデルの開発

磯谷 綾子(国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学・准教授)

近年、再生医療研究において、動物の体内に臓器を作らせる、異種間キメラ動物が注目されつつあります。異種間キメラ動物体内で臓器を作らせるためには、臓器欠損モデルの作出が欠かせないため、本研究において、新たな臓器欠損モデル動物の作製法の開発を試みました。我々は、Crispr/Cas9システムに着目し、細胞死誘導するsgRNAを同定し、機能を細胞レベルで確認しました。さらに、このsgRNAを恒常的に発現するマウス系統を樹立しました。今後、Cas9を臓器特異的に発現するマウスと組合せる事で、臓器欠損モデルを作製することができると期待しています。

中心小体におけるカートホイール構造構築の分子機構の解明

吉場 聡子(東京大学大学院 薬学系研究科・薬学部・特任助教)

細胞のなかにある1組の中心体は、細胞が分裂し2つに分かれるときにそれぞれの極となって分裂を正しく導く重要な役割を持っています。中心体の数の増加や機能の異常は、がんの発症やさまざまな病気と密接に関係していることがわかっています。中心体がどのように形成されるのかについて研究することで、細胞のがん化のメカニズムや関連する病気の原因が明らかになり、将来的には治療に役立つことが期待されます。

βアミロイドによるNa+,K+-ATPaseの不活化機構の構造的解明

金井 隆太(東京大学・助教)

アルツハイマー病は脳内でアミロイドβの凝集・蓄積により発症します。近年、アミロスフェロイド(ASPD)と呼ばれる、アミロイドβの特定の凝集体がNKAα3と呼ばれる神経細胞に特異的な膜蛋白質に結合し、強い神経毒性を示すことが分かってきました。そこで、私達は将来的にアルツハイマー病の治療薬創出を目指して、ASPDがどのようにしてNKAα3に結合し、その機能を破壊するのかを研究しました。その結果、ASPDはNKAα3が機能する際に生じる構造変化を阻害しているらしいことが分かりました。実際の創薬にはまだ遠いですが、これからも研究を続けていきたいと思います。

ドロップ・テクノロジーを用いたRNA蛍光センサーの進化的創出

松村 茂祥(富山大学 大学院理工学研究部(理学)・助教(テニュアトラック))

近年、蛍光を発する人工RNAの開発が急速に進んでおり、細胞内の任意のRNAの蛍光標識および可視化、細胞内RNA動態のリアルタイム解析などへの応用が期待されている。本研究は、これらの蛍光RNAを細胞サイズのマイクロドロップレットへ封入し、人為的に「進化」させることで、望みの特性をもつ蛍光RNAを自在に創製する方法論を確立し、ライフサイエンスにおけるRNAイメージングなどへの貢献を目指すものである。

がんの病態形成に関わるChk1標的因子の機能解明と革新的治療法の確立

島田 緑(山口大学 共同獣医学部・教授)

乳癌は日本人女性が罹患する悪性腫瘍の第1位であり、その罹患数ならびに死亡数は増加の一途を辿っています。ホルモン療法および抗HER2療法では効果がないトリプルネガティブ乳癌に対しては治療法は限定されており、予後は極めて不良であることから、有効な分子標的薬の創出が緊急に迫られています。本研究では、トリプルネガティブ乳癌で高発現しているCalcineurin脱リン酸化酵素を阻害するFK506が乳癌の増殖を抑制できることがわかりました。

緑藻の概日時計をリセットする未知の赤色光受容伝達経路の解明

松尾 拓哉(名古屋大学 遺伝子実験施設・講師)

私はクラミドモナスという緑藻の一種を使って体内時計を研究しています。私たち人間と同様、緑藻の体内時計も光によってリセットされます。しかしその分子メカニズムはよく解っていませんでした。私はこの研究により、その未知のメカニズムに関わる遺伝子を明らかにしました。その遺伝子の解析から、緑藻は他の生物には見られない独特な光応答メカニズムを持つことが見えてきました。この研究成果は、生物の光応答メカニズムの進化の理解につながると考えています。

膵β細胞における脂肪酸伸長酵素Elovl6の役割の解明

松坂 賢(筑波大学・准教授)

本研究では、パルミチン酸(C16:0)からステアリン酸(C18:0)への伸長を触媒する酵素Elovl6に着目し、2型糖尿病モデルdb/dbマウスの膵β細胞でこの酵素を欠損させると、2型糖尿病の発症・進展が抑制される可能性があることが示唆されました。本研究をさらに進めることにより、膵β細胞におけるElovl6の阻害や脂肪酸バランスの管理が、2型糖尿病の新規治療法となることが期待されます。

ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞を用いた腎性貧血に対する再生医療と新規治療薬の開発

長船 健二(京都大学iPS細胞研究所 長船研究室・教授)

現在、慢性腎臓病の進行によって慢性腎不全となり透析療法を受けている多くの患者さんがいます。慢性腎不全の合併症として腎性貧血があり、遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤投与による治療が行われておりますが、貧血の生理的なコントロールは依然として困難です。本研究において、我々はヒトiPS細胞からエリスロポエチンを産生する細胞を作る方法を開発し、さらに本細胞からのエリスロポエチン分泌を促進する活性を有する化合物を発見しました。今後、本化合物を用いた腎性貧血に対する再生医療と新規治療薬の開発が期待されます。

発生期脳神経細胞の生死を決める機構

仲嶋 一範(慶應義塾大学・教授)

マウス胎生期の大脳半球をある条件下で培養すると、神経細胞死が外側から背内側に向かって進行し最終的に全体が死滅することを見出した。その際、死んだ領域とまだ生き残っている領域の境界は極めて明瞭であり、かつ細胞死が起こらない筋状の領域が前後方向にほぼ一定間隔で現れた。複数の脳を半透膜で包んで共培養する実験から、この神経細胞死を完全に防ぐことのできる強力かつ低分子量の内在性因子が脳から分泌されていることを発見した。この因子を今後の研究で同定できれば、発生期の脳に内在する低分子量の強力な神経細胞死抑制因子として、臨床応用も視野に入ると期待される。

リプログラミング技術を応用した心臓ペースメーカー細胞の誘導法の確立

中尾 周(立命館大学・助教)

加齢に伴う心拍数の低下(徐脈)は、ときに息切れや動悸、失神を生じるほどに進行し、その主な治療法である機械式ペースメーカーの移植には、感染、故障、高額などの問題が残されている。本研究では、徐脈性不整脈に対する新たな再生医療の開発を展望として、心臓ペースメーカー細胞を体細胞から作り出す方法の確立を目的とする。この方法は、iPS細胞などの未分化細胞へ脱分化させる過程をスキップできることから、時間と費用を大きく節約できる特長がある。また、ペースメーカー細胞の性質を獲得させるための因子を特定するための手掛かりとして、病気モデルや胎児期の心臓形成に着目し、データの集積・解析を進めている。

NMR計算と全合成を基盤とした稀少ポリケチドホルモサリドAの構造決定

占部 大介(公立大学法人 富山県立大学・教授)

天然には、抗がん活性や抗菌活性など創薬において魅力的な生物活性を有する有機化合物が数多く存在します。一方で、天然から得られる量が限られている希少天然物の基礎研究は進展していません。本研究では、渦鞭毛藻から単離された希少天然物ホルモサリドAの初期段階の基礎研究として、その構造決定に取り組みました。現在までに、コンピューターを使ったホルモサリドAの構造推定に成功し、有機合成による推定構造の確認に着手しています。近い将来ホルモサリドAの構造が決定できると考えています。

マイクロRNAを用いた時空間制御可能なアポトーシス誘導法の開発

渡邉 和則(岡山大学・助教)

国内外の研究者により光による細胞機能制御法が開発されている。本研究では、申請者らが同定したアポトーシスを誘導するマイクロRNAであるpre-miR-XXと、光依存的にRNAを細胞内に輸送できるPCDR法を組み合わせることで、アポトーシスを時空間的に制御することを目的とした。その結果、PCDR法でpre-miR-XXを細胞内で導入することで、アポトーシスを高効率に誘導できるだけでなく、アポトーシスを時空間的に制御できることも明らかになった。本手法は副作用の小さいがん治療法として発展していく可能性を秘めている。

未開拓創薬有用天然物:ドラグマシジンEの不斉全合成研究

根本 哲宏(千葉大学大学院薬学研究院・教授)

ドラグマシジンEは、生体内で重要な役割を果たすセリン-スレオニンホスファターゼの阻害作用を示す化合物として知られているが、天然から得られる量はごく微量であり、詳細な研究には合成化学的な供給法の開発が不可欠となっている。私たちは、本天然有機化合物の合成法を開発し、医薬品開発への可能性を調査するために研究を進めている。これまでに、本化合物の主要骨格の構築法は開発したものの、鏡像異性体の作りわけに関しては一層の検討を要する。標的分子骨格の新規合成法開発を含めた、網羅的な研究を進めることで、本天然有機化合物の供給法を今後開発していきたい。

神経生理学と深層学習の組み合わせによる柔軟な判断の神経基盤の解明

熊野 弘紀(山梨大学・特任助教)

ヒトは環境に応じて柔軟に判断を切り替え、そのときの環境に応じた行動をとることができる。これまでに我々は、判断を切り替える際には、判断をくだすのに必要な情報を収集する過程が環境に応じて異なることを見出した。本研究では、前頭前野がどのようにダイナミックに情報収集過程を制御しているかを理解するために、前頭前野の広い範囲から皮質脳波を計測した。その結果、環境に関する情報は眼窩前頭皮質で最初に現れ、前頭前野の広い領域に伝播する可能性が示唆された。今後は、前頭前野に存在する環境情報がどのように判断をつかさどる神経回路に作用し柔軟な行動が可能になるのかを、神経生理学的手法と深層学習を併用して明らかにしたい。

ダウン症関連遺伝子DYRK1Aを標的とした新規アルツハイマー病治療薬の開発

浅井 将(東京理科大学薬学部・助教)

認知症患者は、団塊世代が75歳以上となる2025には700万人に達すると見積られており、その最大の原因疾患はアルツハイマー病である。アルツハイマー病の根本的治療薬は存在せず、多くの化合物の治験が中止となっている。本研究では、治療薬開発の着眼点を変え、早期からアルツハイマー病を発症するダウン症からヒントを得て、21番染色体に存在するリン酸化酵素に辿り着いた。この酵素はアルツハイマー病に増悪的に作用し、患者脳で発現が亢進していることから、その阻害剤は複数の作用点を有し、副作用が少ない治療薬になり得る。茶カテキン等が阻害活性を有していることから、さらなる開発が望まれる。

癌内皮細胞を標的とした抗癌剤感受性増大法の開発

村田 幸久(東京大学・准教授)

がん細胞と同様に、がんに伸びて酸素や栄養を届ける血管細胞も抗癌剤耐性能を獲得することが知られている。私たちは、このがんの血管に特異的に発現している酵素を発見し、この酵素の阻害ががん血管の薬剤耐性を解除することを発見した。この酵素の阻害剤と抗癌剤を同時に投与することで、がんに伸びる血管を効率よく抑えて、がんの増殖をとめることが可能となる可能性がある。

ストア作動性Ca2+流入シグナルソームの分子機序と生理的意義

馬場 義裕(九州大学生体防御医学研究所・教授)

本研究の目的はカルシウム流入に必須の分子であるSTIM1の活性を制御する新規分子を同定することです。免疫細胞の分化や活性においてカルシウム流入は極めて重要であり、免疫不全、自己免疫疾患、アレルギーの発症にも関与します。そこで、本研究成果はこれら疾患に対する新規薬剤の創薬につながる可能性があります。本研究では新規のSTIM1結合分子を同定でき、カルシウム流入に関与する可能性が示唆されたことから、今後さらに研究を進めていきたい。

正常と腫瘍血管内皮を規定するエピゲノムプログラムの解読

鈴木 拓(札幌医科大学・教授)

腫瘍血管新生はがんの発生や成長に重要な役割を担っており、有望な治療標的と考えられています。我々は大腸がん組織の遺伝子発現解析から新たな腫瘍血管関連因子としてAEBP1を同定しました。我々の研究からAEBP1は大腸がん組織の血管内皮細胞で高発現していること、そしてAEBP1が腫瘍血管新生を促進することが分かりました。マウスを用いた実験でAEBP1の阻害ががん組織の成長を抑制する効果が認められたことから、AEBP1はがん治療標的となりうる可能性が示されました。

がん分子標的薬によって誘導される悪性腫瘍化RNAファミリーの解明

近藤 茂忠(大阪府立大学・教授)

現在、がん関連分子を標的とした分子標的薬治療は悪性腫瘍の標準化学療法となっている。しかしながら、がん細胞は分子標的薬に対して抵抗性を獲得することが臨床的に大きな問題となっている。これまでに、3つの分子標的薬耐性メカニズム〔① 標的分子の耐性変異獲得、② バイパス経路の活性化、③ 標的分子の下流経路の活性化〕が明らかとされている。本研究では全く新しい耐性獲得メカニズムの可能性を見出した。

血管の統合性制御に基づく、転移抑制法の開発

新藤 隆行(信州大学大学院医学系研究科・教授)

血管の恒常性は、液性因子とその受容体システムによって制御されています。私達は、アドレノメデュリン(AM)が主として血管から分泌され、様々な生理作用を有することを明らかとしてきました。AMとその受容体活性調節タンパクであるRAMP2は、血管恒常性維持に重要な働きをしています。この研究において、私達は、血管内皮細胞特異的なRAMP2ノックアウトマウスや、RAMP2過剰発現マウスを用いて、AM-RAMP2系の癌転移における意義をはじめて明らかとしました。
注目すべきは、血管内皮細胞にRAMP2を過剰発現したマウスでは、癌の転移が抑制され、生存率が改善したことです。この結果から、血管の恒常性維持に注目することで、癌転移を抑制する新しい治療法につながることが期待されます。

自己免疫疾患の発症を抑制する胸腺上皮細胞への分化決定機構の同定

秋山 泰身(理研 統合生命医科学研究センター・チームリーダー)

免疫応答の司令塔であるTリンパ球のほとんどが胸腺で産生されます。胸腺でT細胞が産生する際、自己の組織に応答するTリンパ球も生じます。そのほとんどは胸腺であらかじめ除かれますが、それらがうまく除かれない場合、自己免疫疾患の原因になると考えられています。本研究では、胸腺で自己組織応答性Tリンパ球を除去し、自己免疫疾患の発症を抑制する上皮細胞に着目し、それらの細胞がどのような機構で発生するのか調べます。本研究の成果は、将来的に自己免疫疾患の発症予防や治療に貢献することが期待されます。

ストレスセンサーとしての核小体を介した細胞機能の制御

木村 圭志(筑波大学・准教授)

核小体は核内に存在する多種類のタンパク質とRNAから成る構造体で、リボソーム生合成やストレス応答など多くの細胞機能に関与します。細胞が種々のストレスに細胞がさらされた際には、核小体が崩壊しそれに伴って局在を変化させた核小体因子が種々の細胞機能に関与します。また、細胞分裂に伴って核小体が崩壊し多くの核小体因子が局在を変えることから、核小体と細胞分裂の関連性が示唆されてきましたが、その実態は分かっていませんでした。本研究で我々は、核小体因子であるNWC複合体が、分裂期の染色体周辺に結合し動原体の機能を制御することにより正常な細胞分裂に寄与することを見出しました。

血管発生・形態形成とヒト血管病におけるシグナル伝達機構:多階層オミックス解析による研究

中川 修(国立循環器病研究センター 研究所 分子生理部・部長)

細胞分化・増殖・移動など多様な生命現象の組み合わせにより、複数の起源を有する前駆細胞から心臓・血管の発生・形態形成が行われ、多様な細胞群が協調して働く成熟機能システムを実現するメカニズムは非常に複雑であり、その破綻が先天性心疾患・遺伝性血管疾患のみならず成人の循環器疾患の病因に深く関わることは明らかです。心血管系の発生・形態形成過程において様々な細胞間・細胞内シグナル伝達系が働くことが知られていますが、私たちはそれらシグナル伝達系の活性化や阻害によって内皮細胞の遺伝子発現様式・タンパク質分子発現様式などがどのような影響を受けるかを検討しました。今後も心血管形成におけるシグナル伝達機構の研究を続け、ヒト心血管疾患の病因・病態解明と診断法・治療法開発を目指したいと考えております。

細胞外DNAの形成機序とその生理作用に関する研究

斉藤 寿仁(熊本大学大学院先端科学研究部・教授)

DNAは核内に保持されるだけでなく、細胞外に放出されることがある。例えば、白血球が細胞外に形成するNeutrophil Extracellular Traps(NETs)のDNAは、細菌の侵入とシグナル因子の拡散を調節することで、免疫応答に関わる。しかしながら、細胞外DNAの形成と機能についての詳細は、不明な点が多い。本研究では、白血病由来細胞HL-60を小胞体ストレス誘導剤Tunicamycinで処理することで細胞外DNAを誘導する実験系を構築した。細胞外DNAに関する未踏破の研究領域に踏み込んだことで、遺伝暗号やエピジェネティクス以外のDNA機能の重要性を指摘し、新たな保健医療技術を開拓するための知的基盤を構築した。

5-HT2A 受容体刺激薬の精神疾患治療薬としての有用性

衣斐 大祐(名城大学・助教)

うつ病患者の30%は既存の抗うつ薬が効きにくい難治性である。
最近の臨床研究から幻覚薬でセロトニン5-HT2A受容体(5-HT2A)刺激薬のシロシビンが、難治性うつ病患者に対して、即効的かつ持続的な抗うつ作用を示した。そこで我々は、5-HT2A刺激薬による抗うつ作用についてマウスを用いて調べたところ、5-HT2A刺激薬は、うつ病モデルマウスにおいて、即効的かつ持続的な抗うつ作用を示した。さらにその作用には外側中隔核におけるGABA神経の活性化が関与していることが証明された。本研究によりうつ病治療における5-HT2A刺激薬の有用性が示されれば、本研究が新たな抗うつ研究の礎となることが期待できる。

Developmental Biology in Plants

鄭 恵国(北海道大学国際連携機構・助教)

我々の研究は初期陸上植物の植物体の発生調節におけるROPシグナル伝達経路の重要性を強調している。

エネルギー状態に基づき授乳行動を制御する新規オキシトシン神経機構の解明

室井 喜景(帯広畜産大学・准教授)

哺乳類の母親は乳で仔を育てます。エネルギーを失うことは自分の生存に不利なことですが、母親は授乳により自分のエネルギーを自ら進んで仔に分け与えます。本研究ではそんな母親の性質を司る仕組みを明らかにすることを目指しました。今回の研究で、低エネルギー状態でもオキシトシンが脳に作用することで母親は授乳し続けることがわかりました。これまでにオキシトシンは乳腺に作用し射乳を促すことがわかっていましたが、母親の行動にも影響し授乳を促すことが明らかになりました。オキシトシンが自己犠牲的なお母さんの性質の一面を担っていると考えられます。

胸腺上皮細胞分岐分子機構の解析

大東 いずみ(徳島大学先端酵素学研究所・准教授)

免疫の中枢器官である胸腺を構成する皮質、および、髄質上皮細胞は、生体防御に必須なT細胞の産生を担います。本研究では、皮質/髄質上皮細胞の分化を制御するメカニズムの解明を目指しました。上皮細胞の分化制御メカニズムを解明することは、将来、免疫不全症や自己免疫疾患の根本的治療法開発につながると考えられます。また、本研究を進める中で、胸腺上皮細胞で発現する遺伝子が精巣でも発現しており、生殖能獲得に重要であるという、予想外の結果を得ました。男性不妊発症のメカニズム解明や、治療法開発につながることが期待されます。

肝脂質代謝におけるHeat shock protein 40 Member C1の意義

中司 敦子(岡山大学病院 腎臓・糖尿病・内分泌内科・助教)

近年脂肪肝や脂肪肝炎が増加していますが、発症・進展のメカニズムについて未解明な部分も多くあります。細胞は生存・機能に必要な蛋白を合成しており、蛋白が正しい構造になるのを手助けする多種類の“シャペロン分子”が存在しています。近年、それぞれが、シャペロン機能とは無関係の、独自の「固有機能」を持つことが分かってきました。Dnajc1はいまだ未解明な点が多い分子ですが、我々が以前の研究で、肝細胞の細胞質のみならず細胞表面にも存在し、糖脂質代謝に関係する可能性を見出したシャペロン分子の一つです。Dnajc1は肝臓で糖代謝を改善させ、炎症を抑制する結果が得られました。さらに今後研究を進め、脂肪肝・脂肪肝炎の予防や治療に結び付けたいと考えています。

CCR1陽性骨髄由来細胞をターゲットにした新たな大腸癌治療

河田 健二(京都大学・講師)

大腸癌に対する新規治療法として、腫瘍微小環境にある宿主因子である骨髄球、とくに好中球に着目して研究を進めています。マウスモデルや臨床検体を用いて検討してきた結果、ケモカイン受容体であるCCR1とCXCR2がとくに重要なターゲットになり得ることを明らかにすることができました。臨床の現場で役立つところまではもう少し時間がかかるとは思いますが、さらに研究を進めていけたらと考えています。

性決定システムの進化機構の解明

竹花 佑介(長浜バイオ大学・准教授)

ほとんどすべての動物にオス・メスがあるのと対照的に、オス・メスを決定する仕組みは動物種によってさまざまです。しかし、この性決定の仕組みがどのように多様化してきたのかは、ほとんどわかっていません。今回の研究により、メダカ属という近縁なグループ内で、下流遺伝子の重複転座によって異なる性染色体が独立に進化してきたことや、XY型とZW型で性決定遺伝子の作用点が異なることを示すことができました。これらの成果は、性決定の仕組みが(従来考えられてきたよりも)さらに多様である可能性を示唆しています。

3次元神経病理学に向けた特異的ケミカルプローブの設計戦略

田井中 一貴(新潟大学脳研究所・特任教授)

現在の神経病理学では、薄切標本に基づく2次元平面の病理学的解析が基盤となっていますが、平面の病理学的解析だけでは対処困難な多くの課題があります。私たちは、この課題を解決するために「立体的な脳組織を立体のままもれなく観察すること」を実現する、組織透明化技術に基づく3次元イメージングCUBICを開発しました。今回の助成研究では、ヒト脳組織の高度な透明化に取り組むと共に、透明化手法に適用可能な種々の染色手法を確立しました。本手法を用いて、3次元画像に基づく病理診断技術の実現を目指します。

浸透圧調節を担う塩類細胞における分子基盤の構築

宮西弘(宮崎大学・助教)

淡水と海水の両方で生きられる魚は、異なる塩分環境に適応するため、鰓に存在する塩類細胞の機能を、環境に合わせてイオンの取り込む(淡水中)、または排出(海水中)するように切り替えます。しかし、塩類細胞の分化および機能的可塑性に関する機構は分かっていません。まず我々は、転写因子FOXI1が、全てのイオン取り込み型および排出型の塩類細胞の分化に必須であることを証明しました。FOXI1のさらに下流のシグナリングを明らかにするために、イオン取り込み型および排出型の塩類細胞特有の遺伝子プロファイルを明らかにしました。さらなる解析をとおして、なぜ魚が川や海で生きられるか?を明らかにするとともに、FOXI1の関与が示唆されるヒトの難治性難聴の発症機序の基礎知見に繋げていきます。

筋衛星細胞の未分化性維持機構の解明と筋ジストロフィー治療法への応用

林晋一郎(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所・室長)

遺伝性の筋疾患である筋ジストロフィーの根本的な治療法は未だ確立されていません。筋幹細胞を移植する方法が根治療法の一つとして期待されていますが、生体外で筋幹細胞の未分化性を保持したまま培養することが難しく、筋幹細胞の未分化性維持機構の解明が課題となっています。本研究では筋幹細胞の未分化性をレチノイン酸受容体アゴニストによって維持できること、また、そのシグナルはRARを介していることを明らかにしました。本研究をさらに進め、難治性筋疾患治療法開発に役立てたいと考えています。

成果報告によせて - 2016年度受賞者から

(受付順、敬称略)

Long non-coding RNAによるストレス応答性スプライシングの制御機能の解明

廣瀬 哲郎(北海道大学 遺伝子病制御研究所・教授)

21世紀のポストゲノム時代に入り、ヒトゲノムの75%もの領域から正体不明なノンコーディングRNA(lncRNA)が産生されていることが明らかになり、その機能に注目が集まっている。Sat IIIと呼ばれるlncRNAは、熱ストレスが細胞に加わった際に合成され、核内ストレス体という顆粒状の核内構造体を組み立てる機能を果たしている。実施者は、今回この核内ストレス体の果たす機能を調べた結果、Sat III lncRNAが核内ストレス体内に係留しているSRタンパク質という制御因子のリン酸化状態をコントロールして、遺伝子発現過程の一段階であるRNAスプライシングを制御していることを発見した。このメカニズムは、lncRNAが細胞のストレス状態からの回復を効率よく行うために働いていることを示しており、ヒトの身体のストレス遭遇時に重要な役割を果たしている可能性が浮上した。

性染色体組み換え抑制の起源

菊池 潔(東京大学大学院農学生命科学研究科・准教授)

ヒトのY染色体は著しく退化しており、大多数の遺伝子を失っています。このような退化したY染色体は多くの動植物にみられます。この性染色体の退化は「組み換え抑制」によってもたらされますが、「その原因は染色体間の逆位である」と説明されてきました。しかし、この説は、ヒトやハエの退化しきった性染色体をもとにした説であり、真の原因はわかっていません。我々は、退化直前・直後の性染色体をもつ魚類群を発見しました。これらを調べたところ、逆位が組み換え抑制のトリガーではなさそうだということがわかりました。抑制がある種とない種で、性決定領域のDNA配列は類似していることから、エピゲノム機構が、組み換え抑制に関わる可能性が高いと考えられました。

シングルセルトランスクリプトーム解析による神経情報処理の新規機構の同定

太田 茜(甲南大学・特別研究員)

温度は生物の生死に直結する環境情報である。本申請者はこれまでに、C. elegansの低温耐性を指標に、温度応答のシンプルな実験系を確立した (Ohta et al., Nature commun,2014)。具体的には、頭部の感覚ニューロンが温度を感知し、インスリンを分泌することで、腸などに働きかけ、温度耐性を獲得させる。さらに、腸が精子に働きかけ、精子が頭部の温度受容ニューロンをフィードバック制御する (Sonoda, Ohta et al., Cell reports, 2016)。本研究を通じて我々は、低温耐性に関して、温度受容ニューロンで機能する新規の分子を同定した。

ライブイメージングとシミュレーションを用いた澱粉粒の形状決定機構の解明

松島 良(岡山大学 資源植物科学研究所・准教授)

澱粉粒とは、植物細胞内で合成された澱粉が形成する粒子のことである。澱粉粒は、アミロプラストという植物オルガネラの内部で合成される。澱粉粒の形状は植物種によって多様性を示し、その形状は澱粉の利用用途と精製効率を規定する重要形質と考えられている。しかし、澱粉粒の形状が決定される仕組みは未解明である。本研究では、蛍光タンパク質を用いて、生きた細胞内でアミロプラスト並びに澱粉粒を可視化する観察系を構築した。今後、澱粉粒やアミロプラストを形態学的に解析する上で、極めて重要な研究ツールになり得るだろう。

前立腺癌におけるRNA結合タンパク質PSFを介したゲノムワイドでの転写、翻訳制御機構

高山 賢一(東京都健康長寿医療センター研究所 老化制御 健康長寿ゲノム探索・研究員)

前立腺がんは世界的にみて男性に発生するがんとして最も多いがんです。男性ホルモンであるアンドロゲンによりがんの成長、病気の進行を促進することが知られておりアンドロゲンを抑制する薬剤が治療に用いられるものの治療抵抗性に陥ることが問題となっています。治療抵抗性の出現にはアンドロゲンの受容体の発現上昇が知られていますが、その機序がよくわかっていません。遺伝子の発現にはDNAからの転写により生成されるRNAから蛋白合成を通じて行われます。本研究はRNA結合タンパク質であるPSFがアンドロゲン受容体およびRNAの成熟に関与する遺伝子群のRNAに作用することでその安定性、発現を促進していることを明らかとしました。RNA成熟に関与する遺伝子群の発現上昇が引き起こされアンドロゲン受容体の活性化、がんの悪性化につながる新たな作用機序を見出しています。

海馬における経路特異的な情報処理機構の解明

水関 健司(大阪市立大学大学院医学研究科・教授)

海馬と呼ばれる脳の領域は、個人的な経験を思い出す能力であるエピソード記憶に重要な役割を果たします。本研究では、海馬からどの脳領域へどのような情報が伝達されるのかを明らかにするための基盤的な技術を開発しました。今後は開発した技術を用いて、海馬と他の脳領域がどのように情報をやり取りして記憶をサポートしているのかを明らかにしたいと考えています。アルツハイマー病などの認知症では、ごく初期から海馬に変性がみられます。海馬における情報処理のメカニズムを少しでも明らかにして、将来的に認知症の新規治療法を確立するための基盤を作りたいと考えています。

抗腫瘍活性海洋産アルカロイドをモチーフとする天然物創薬

好光 健彦(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科(薬学系)創薬有機化学分野・教授)

海綿から見出されたアゲラスタチンAは,抗がん剤の開発において大変魅力的な物質として興味を集めています。これまで我々は,アゲラスタチンAの化学構造を人工的に改変し,抗がん剤のリード化合物を創り出す研究を進めてきました.本研究では,こうした創薬研究の基盤を成す化学合成法の開発,化学合成によって得た化合物の中から有望な物質を見出すこと,そして,アゲラスタチンAの作用機序の解明に役立つ分子プローブの合成に取り組みました.その結果,各種誘導体の新規合成法の開発並びにリード化合物の設計指針となる知見を得ることに成功しました。

血管ニッチによって制御されるステムセルエイジングと加齢関連疾患発症機序の解明

南野 徹(新潟大学循環器内科・教授)

本研究で私たちは、心不全に伴って心臓で炎症が惹起される機序について明らかにしました。このような炎症の亢進が、心不全悪化につながっていることから、今後新たな治療の標的となりうると考えられます。

小分子RNAを介したゲノム三次構造制御によるトランスポゾン抑制機構の解明

岩崎 由香(慶應義塾大学医学部分子生物学教室・専任講師)

生物の設計図であるゲノムは、自身のコピー数をどんどん増やしてしまう「利己的な遺伝子」として知られるトランスポゾンの転移により、傷ついてしまいます。piRNAと呼ばれる小さなRNAが、このトランスポゾンを抑え込む働きをしており、この制御が正常に機能しないと不妊等が引き起こされることが知られています。そこで本研究では、piRNAがどのようにトランスポゾンを抑制するかを解析しました。研究成果として、piRNAによるトランスポゾンの抑制においては、核内でゲノム(クロマチン)がどのように折りたたまれているかが制御されることが重要だということが分かりました。

アルキンの転位を起点とする水を酸素源とするスピロケタールの触媒的合成法の開発

武藤 雄一郎(東京理科大学・助教)

本研究では、これまでの常識では考えられなかったルテニウム触媒をもちいる内部アルキンの1,2−転位を起点とする[5,6]–スピロケタールの触媒的新規合成法の開発に挑戦しました。[5,6]–スピロケタールは、ベルケリン酸やγ-ルブロマイシンなど抗腫瘍生物活性物質の活性を担う重要な骨格です。今後の薬理学研究に向けてスピロケタールライブラリーを構築するためには、それらを自在に合成できる新たな反応の開発が必要不可欠です。低収率ではありますが、[5,6]–スピロケタール新しい合成法の開発に成功し、段階的に反応を行うことによって反応機構についても明らかとしました。

脳内低酸素応答の病態生理学的意義およびその介入による中枢神経疾患への応用

白川 久志(京都大学 薬学研究科 生体機能解析学分野・准教授)

脳血流の軽度な低下は、脳梗塞や心不全にかかったり、継続的なストレスを受けたりすることで起き、さらに高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病による動脈硬化により慢性化されます。これまでに我々は、軽度な脳血流の低下であっても長く続くことで白質傷害を主に介して、軽度な認知機能障害になることを示してきましたが、本研究により低酸素感受性を有するTRPA1チャネルがこの軽度な認知機能障害に対して保護的な役割を果たしていること、並びにこのTRPA1を刺激することにより病態を改善できる可能性を示すことができました。今後はこのTRPA1チャネルを介した保護機構をより詳細に解析したいと思います。

エリスロポエチン受容体を介した慢性骨髄増殖性腫瘍の発症機序の解明

多胡 めぐみ(慶應義塾大学薬学部・准教授)

慢性骨髄増殖性腫瘍 (MPN) の効果的な治療薬を開発する上で、未だ不明な点の多いMPNの発症メカニズムを解明し、理解することが重要です。今回の研究では、MPNの原因となることが知られているチロシンキナーゼJAK2変異体が、サイトカイン受容体EpoRを介してSTAT5やERKなどのシグナル伝達分子を活性化し、細胞増殖や腫瘍形成を誘導するメカニズムを明らかにしました。本研究を通して、EpoRがMPN治療薬の標的分子となりうる可能性が高いことが示されました。

成長因子受容体を介した成熟心筋細胞の増殖誘導とその分子機構の解明

平井 希俊(関西医科大学 薬理学講座・講師)

心筋細胞は生後細胞周期の休止期に入りその後増殖することはない。そのため心筋梗塞で心筋細胞が失われると心機能障害をきたし心不全を発症してしまう。本研究ではマウスで成長因子受容体シグナルを活性化することにより、成熟心筋細胞の増殖を誘導しうるかどうかを明らかにすることを目的とした。本研究の結果、心筋細胞で成長因子受容体を過剰発現させ、その細胞を1細胞レベルで直接可視化できるマウスの作製に成功した。今後、このマウスを用いて、成熟心筋細胞の増殖を誘導することが可能であれば、梗塞後心不全に対する新規治療の開発への展望が開けるだろう。

希少がんである神経内分泌腫瘍のがん抑制遺伝子PHLDA3の遺伝子診断による 新しい予後・治療薬選択の診断法開発~神経内分泌腫瘍患者の個別化医療を目指して~

大木 理恵子(国立がん研究センター研究所 基礎腫瘍学ユニット・独立ユニット長)

神経内分泌腫瘍は全身の様々な臓器に生じますが、希少がんであるため研究開発は遅れており、有効な診断法・治療法がありません。私たちは、肺と膵臓の神経内分泌腫瘍において、PHLDA3遺伝子は高頻度にゲノム異常によって機能が失われていることを発見し、PHLDA3遺伝子が肺と膵臓の神経内分泌腫瘍において、がん抑制遺伝子として機能している事を明らかにしました。さらに、PHLDA3機能が失われている症例は悪性度が高く予後不良である事が示されました。これらの知見を元に、神経内分泌腫瘍のヒトや動物のサンプルを解析し、その本態を解明し、治療と診断に貢献したいと考えております。

病態特異的ヒストンメチル化制御異常の白血病発症における役割

上田 健(近畿大学医学部・講師)

急性骨髄性白血病で高発現を認めるエピゲノム制御因子が白血病の病態にどのように関与しているかを明らかにする研究を進めています。

全身投与可能ながん標的化改変ヘルペスウイルスによる転移性悪性腫瘍の治療法開発

内田 宏昭(東京大学医科学研究所・講師)

がん細胞だけに特異的に侵入し、静脈内投与可能な標的化腫瘍溶解性ウイルス療法が開発できれば、原発巣のみならず全身の転移巣にも有効な治療法となりえる。私たちは、単純ヘルペスウイルス(HSV)にがん細胞表面抗原を認識する単鎖抗体を組み込むことにより、標的細胞のみに侵入可能な標的化HSVの構築に独自に成功した。この標的化HSVは、現在臨床開発が進められているウイルス複製の段階でがん選択性を発揮するHSVに比して、より静脈内投与に適していると考えられる。

液中先端増強超解像ラマン顕微鏡による細胞膜のin vitro観察及びその機能解明

バルマプラブハット(大阪大学・教授)

細胞膜は細胞同士を隔てる単なる仕切りではなく、細胞外からの情報をやり取りしたり、必要な物質を細胞内に輸送したり、私たちの健康を維持するために必要な機能を沢山持っています。また、多くのウィルスや薬も細胞膜を足掛かりとして作用するので、細胞膜の様々な現象を単分子レベルで解明することは、創薬の発展にもとても重要です。しかし、ありのままの細胞膜を単分子レベルで観察する手法は非常に困難です。私たちは、これを実現すべく生体環境で使える先端増強ラマン散乱顕微鏡という装置を開発しました。単分子レベルの分解能でありのまま細胞膜を観察できるため、今後細胞膜の研究にますます役立つことと期待しています。

免疫-神経-代謝システム間連携による心臓恒常性維持と心不全発症機序の解明

眞鍋 一郎(千葉大学・教授)

心不全は急速に増加しており、新しい治療法を開発することは喫緊の課題です。私たちは、心臓に存在するマクロファージ(免疫細胞の一種)に注目して、その機能の解析を行いました。心臓マクロファージは心臓へのストレスに対して心臓を守る機能を持っています。また、アンフィレグリンという分子を作ることが大事なことを見いだしました。心臓マクロファージの機能は、心臓-脳-腎臓をつなぐネットワークによって制御されています。また、心臓の中では、心臓に存在する心筋細胞等の細胞との関連によって制御されています。本研究で同定したメカニズムは今後の心不全治療法の開発に役立てることができると考えています。

睡眠下のシナプス可塑性とリプレー現象の記憶固定化における役割

林 康紀(京都大学医学研究科システム神経 薬理学教室・シニアチームリーダー)

記憶は学習後、海馬に短期的に保持されたのち皮質に移行し長期的に保存されます。これは記憶の固定化と呼ばれ、我々の日常において重要な機能です。しかしその詳細なメカニズムは分かっていません。我々は記憶の固定化においてLTP(シナプス長期増強)が重要な役割を担っていると考えました。本研究では光照射によってLTPを解除する方法を開発しました。光照射によってLTPの解除することで、LTPが生じる詳細な場所と時間を知ることが可能になりました。したがいまして本技術は、記憶の固定化の過程(特に睡眠中)のいつどこでLTPが生じて固定化が完了するかを知ることができる画期的な技術と言えます。

生殖幹細胞の性決定機構の解明

田中 実(名古屋大学・教授)

生殖幹細胞が卵になるか精子になるかの仕組み(生殖細胞の性決定)を理解することは、基礎生物学のみならず、生殖医学や再生医学、さらには育種分野においても極めて重要である。にもかかわらず、この仕組みはほとんどわかっていない。今回の研究により、この生殖細胞の性決定を司る遺伝子の候補を絞り込むことができた。さらには今まで知られていない生殖細胞の特性も明らかにできた。生殖細胞は単に卵や精子になるだけではなく、メスになるためには必要不可欠の細胞であり、この特性は生殖細胞が本来もつ特性(すなわち自身が卵になったり精子になったりすることとは関係ない)であることを示すことができた。

肺腺がんでのROR1によるカベオラ形成とカベオラエンドサイトーシス制御機構の解明

山口 知也(熊本大学大学院生命科学研究部・准教授)

これまで私達は、リネジ生存癌遺伝子であるTTF-1によって転写活性化されるROR1が、EGFRやMET、IGF-IR等の多様な受容体の活性化の維持に寄与することで、肺腺がんにとっての重要な生存シグナルを担うことを明らかにしてきた。本研究では、受容体としてのROR1の新たな機能に着目し、肺腺がん細胞におけるカベオラの詳細な生理機能の解明を目的とした。 本研究により、ROR1はカベオラ依存的なエンドサイトーシスによって生じたエンドソームにおいて様々なアダプター蛋白質をリクルートし、肺腺がん細胞の生存シグナルを経時的、及び空間的に制御していることが判明した。
本研究の成果は、ROR1とエンドサイトーシスに関わるCAVIN3との相互作用を標的とした、これまでにない肺腺がんの生存シグナルを特異的に抑える独自性の高い革新的な阻害剤の開発につながると期待される。

環境要因とエピゲノムによるエネルギー代謝制御

松村 欣宏(東京大学先端科学技術研究センター・准教授)

脂肪組織は全身のエネルギー代謝を担う重要な組織で、脂肪組織の機能破綻はメタボリックシンドロームの発症と関係しています。白色脂肪細胞は脂肪を蓄える一方で、ベージュ脂肪細胞は脂肪を燃焼し熱を産生します。環境は後天的なゲノム修飾であるエピゲノムを介して、脂肪細胞の性質を決めると考えられています。本研究により、寒さの刺激は脂肪を燃焼するベージュ脂肪細胞を作り、過剰なエネルギーは脂肪を蓄える白色脂肪細胞を作ることが分かりました。

ミトコンドリア・ダイナミクスと抗ウイルス自然免疫

小柴 琢己(九州大学・准教授)

近年の研究から、ミトコンドリアには今までに知られていない新たな生理機能として、RNAウイルスに対する自然免疫に密接に関わる仕組みが備わっていることが明らかになってきた。しかしながら、このミトコンドリアを介した自然免疫の作動はどのような機構により調節されているのか?不明な点が多く残されている。本研究では、ミトコンドリアの形態的な特徴に着目し、ダイナミックな構造特性が自然免疫応答に必要であることを明らかにした。

神経前駆細胞の安定的培養法の確立に向けた、エピゲノム的制御機構の解明

笹井 紀明(奈良先端科学技術大学院大学・准教授)

再生医療の研究に対して、ES細胞やiPS細胞を用いた神経分化の研究が盛んに行われています。特定の神経へと分化させる上においては、分化した細胞の純度や効率が問題になっています。本研究ではこれらの問題を解決するために、「神経前駆細胞」を利用することを試みました。この細胞は、神経にしか分化しないために、分化させた時に純度の高い細胞が得られ、また効率も良いと推定されます。本研究ではこの神経前駆細胞を安定的に維持するために必要な遺伝子の同定を試み、その一端を明らかにしました。

大腸がん幹細胞の未分化性維持におけるヒストン修飾調節機構の解明と創薬への応用

浜本 隆二(国立がん研究センター研究所・分野長)

本研究代表者は、ヒストンメチル化異常の細胞がん化における重要性を世界に先駆けて明らかにし、その後も常に世界最先端の研究を行ってきた結果、ヒストンを含めたタンパク質メチル化は非常に多様性のある現象であることを解明してきた。一方、最近ヒトがんにおけるがん幹細胞の重要性が明らかになってきており、がん幹細胞を標的とした分子標的治療薬を開発することにより、効果的ながん治療を行うことができる可能性が示唆されている。本研究は、大腸がん幹細胞における、タンパク質メチル化の重要性を明らかにし、ヒストンメチル化関連酵素を標的とした、革新的な新規分子標的治療薬を創生することを目的として施行した。

炎症収束機構の破綻によるリンパ腫進展メカニズム

片山 義雄(神戸大学・講師)

我々がリンパ腫の患者さんから独自に発見したTFLという分子は、炎症の収束に必須の分子でした。この分子がないと、一旦起こった炎症が収束せずに続いてしまうのです。悪性リンパ腫は血液悪性腫瘍の一種ですが、発熱や体重減少、寝汗など全身性炎症症状が特徴です。マウスモデルを用いた本研究で、我々はマウスリンパ腫モデルの予後がTFL分子の有る無しで変化することと、その変化に重要なTFLによってコントロールされている可能性の高い分子を見いだしました。成因のわかっていない悪性リンパ腫の進展を癌という観点ではなく炎症収束機構の破綻と捉える考え方ができる可能性を示唆しており、通常用いられている抗がん剤ではなく炎症を標的としたリンパ腫治療の可能性を探る糸口になるかもしれません。

骨粗鬆症マウスを利用した新規骨芽細胞機能調節分子CRIM1の同定と機能解析

古市 達哉(岩手大学農学部共同獣医学科・教授)

私たちは骨粗鬆症を発症する新規変異マウスを同定し、imlaマウスと命名しました。本研究では全エクソーム解析と連鎖解析という方法を用いて、imlaマウスにおける骨粗鬆症の原因遺伝子としてCrim1を同定しました。Cim1は骨を作る骨芽細胞に発現しており、骨芽細胞の機能を調整することによって、骨量を制御している可能性が示されました。今後は骨量制御におけるCRIM1の役割を明らかにし、CRIM1を標的とした骨粗鬆症治療薬の創薬研究基盤の確立を目指して、研究を展開します。

ペルオキシソーム欠損症:小脳における病態発症の分子メカニズムの解明

藤木 幸夫(九州大学 生体防御医学研究所・特任教授)

細胞小器官ペルオキシソームの形成障害は、大脳や小脳における神経発生・分化障害・神経変性を特徴とする先天性致死疾患ペルオキシソーム欠損症をもたらすが、その発症メカニズムは不明である。我々は病態発症の分子機構解明を目的として、ペルオキシソーム欠損症モデルマウスを作出し、検証を進めるなかで小脳における神経栄養因子NTの発現量増加を見出している。また、このモデルマウス小脳の神経初代培養実験により、過剰なNTが小脳プルキンエ細胞の形態異常を導くことやサイトゾルの還元化がその発現量増加に関与することを明らかにした。これらの研究成果は、未だ治療法が確立していないペルオキシソーム欠損症の治療法開発にも繋がるものと期待される。

竹由来抗菌セルロースナノファイバー/コラーゲン透明コンポジットの創製

小林(岡久)陽子(京都工芸繊維大学・助教)

竹材の表皮や筍皮の細胞には抗菌性があることが経験的に知られており、古来より食品の保存や薬品などに用いられてきました。本研究では、このような竹の持つ抗菌・抗酸化成分を利用した抗菌ナノセルロース医療用材料の創製を目的に、抗菌成分の抽出、活性試験、および抽出残渣からのセルロースナノファイバー製造を行いました。その結果、抽出した成分からは黄色ブドウ球菌のようなバクテリアのみならず、真菌類への阻害効果が示唆されるなど、新たな効果が発見され、また抽出残渣からはセルロースナノファイバー製造に成功しました。高い生体適合性を有しながらも機械的特性の低さからこれまで利用が制限されてきたコラーゲンなどの医療用ゲル材料補強に、今回得られた筍皮由来抗菌成分およびナノファイバーを用いることで、幅広い用途展開につなげて行きたいと考えています。

分化後神経細胞への直接的遺伝子治療法確立のための基盤技術開発

生沼 泉(兵庫県立大学大学院生命理学研究科・教授)

もし、本研究期間に至適化に成功した成熟後神経細胞へのノックイン手法により中枢神経回路の可塑性ともいえる再生現象が引き起こされれば、「中枢神経自らは再生しない」という科学的常識を覆し、生物学の教科書にある「常識」を書き換えるほどのインパクトを与えるともに、幹細胞移植に依らない非侵襲的再生治療法の実現のための基盤研究として、iPS細胞開発以来の大きく、新たな視点が与えられる。

血管内腔圧制御による血管新生モードのスイッチング機構

西山 功一(国際先端医学研究機構・准教授)

血管新生は、もともとある血管から新しく血管をつくりだす現象である。我々の体が作られる時のみでなく、その後の修復過程や様々な病気の発症や進行時に見られる極めて重要な現象であり、その全貌を十分に理解する必要がある。今回の研究では、血管内腔を流れる血液(血流)により生じる内腔圧が血管新生を抑制するメカニズムを明らかにした。また、血管をとりまく細胞ペリサイトが血管内腔圧の作用を調節することで血管新生を制御する新しい血管新生メカニズムが示唆された。本研究は、血管新生の理解に貢献すると共に、血管新生を標的とする新たな治療法創生に資する。

PKGのTOR複合体調節機構と細胞内局在化機構を標的とした新たな心不全治療戦略

中村 太志(熊本大学医学部附属病院 循環器内科・准教授)

サイクリックGMP依存性プロテインキナーゼ(PKG)の活性は、サイクリックGMPの結合により惹起される従来の調節機構以外に、酸化還元(レドックス)によるサイクリックGMP非依存性の調節機構がわかり、心血管における意義が注目されている。本研究は、細胞の成長や増殖、生存を調節する哺乳類ラパマイシン標的蛋白質(mTOR)のシグナルを抑制するチュベリン(TSC2)上に、新規のPKGリン酸化部位を見出し、病的心肥大における同部位のリン酸化の意義を明確にすることを目的にした先駆的な研究です。本研究成果を契機に、心不全治療における新たな分子標的戦略の発展が期待されます。

ウイルスが宿主自然免疫応答を抑制する新規メカニズムの解明

押海 裕之(熊本大学大学院生命科学研究部免疫学分野・教授)

自然免疫応答は、ウイルス感染初期の生体防御に必須の役割を果たす。しかし、多くのウイルスはこの自然免疫応答を抑制する能力を進化の過程で獲得しているため、ヒトに感染し病気を引き起こす。B型肝炎ウイルスは、ヒトの肝がんの主要な原因の一つである。本研究では、B型肝炎ウイルスが細胞外小胞を利用して自然免疫応答を抑制するメカニズムを解明することで、B型肝炎ウイルスが持続感染するメカニズムの一端を解明した。今後、この過程を阻害するような、新たなB型肝炎治療薬開発につながると期待される。

大腸がんの時空間的進展にかかわる制御性T細胞関連のエクソゾーム内包microRNA

三森 功士(九州大学病院別府病院 外科・教授)

近年、癌に対する免疫応答が注目されるようになり、悪性黒色腫等では、抗PD-1抗体であるニボルマブが臨床応用されています。しかし、適応は一部の癌腫に限定されており、大腸癌では臨床試験の段階です。免疫応答機構の存在に関わらず、大腸癌の克服に至っていないのは、大腸癌の局所での免疫応答が正常に機能していないことが示唆せれ、大腸癌における免疫応答と腫瘍細胞の反応機序の解明は重要な課題です。
そこで、我々は、がん抗原に対する免疫応答を制御する制御性T細胞に注目し、研究を進めています。さらに、免疫機構で、重要な役割を担う遺伝子・タンパク群の中で、情報伝達分子の役割を担うmicroRNAに注目し、制御性T細胞とmicroRNAの関連性を解明しようと考えています。

sTn糖鎖抗原による低酸素環境下でのがん細胞の生存戦略の解明

大坪 和明(熊本大学・教授)

がんが転移する過程においてがん細胞は酸化ストレスに曝されるため死滅します。しかし、この酸化ストレスへの耐性を獲得した一部のがん細胞は生存し転移を果たします。これまで、この酸化ストレスへの耐性獲得のメカニズムは殆ど明らかになっていませんでした。私たちはがん細胞が作り出すシアリルTn糖鎖抗原ががんの浸潤能を活性化するとともに抗酸化酵素の産生を誘導することで、がん細胞の生存と転移を直接促進することを明らかにしました。この発見はがん細胞の転移の仕組みを明らかにするのみならず、新しい抗がん剤の開発にとって重要な知見であります。

成果報告によせて - 2015年度受賞者から

(受付順、敬称略)

がん抑制遺伝子と低酸素応答遺伝子ネットワークの機能的・作用機序的クロストーク

原田 浩(京都大学大学院医学研究科・特定准教授)

がんには個性があり、治療が効きやすいタイプや効きにくいタイプ、転移をし易いタイプやしにくいタイプなど、患者さんによって患っているがんのタイプは様々です。私達は、がんの悪性度と治療抵抗性を左右する原因遺伝子の一つとして、LY6Eを発見しました。そしてLY6E蛋白質を豊富に含むがんは増殖が極めて速く、治療がなかなか効きにくいこと、そして結果的に患者さんの生存期間が短くなってしまうことを確認しました。この研究結果を基に、LY6Eを標的とする新たな治療法の開発に向け、研究を続けています。

結核菌の病原性脂質を認識する自然免疫受容体を介した宿主免疫の制御機構

原 博満(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科・教授)

結核は世界人口の1/3が罹患する世界最大の細菌感染症であり、年間200万人を超える人が命を失い続けています。しかし、結核を薬で完治させることは難しく、効果的なワクチンも未だに存在しません。結核を克服するためには、宿主免疫による結核菌の認識と応答の仕組みと、結核菌が免疫を回避する仕組みの両方を分子レベルで理解する必要があリます。我々の研究によって結核菌の病原性脂質による免疫抑制の分子機構が明らかになれば、新しい概念での結核の予防薬や治療薬の開発に繋がるものと期待しています。

自然免疫をダイナミックに制御する糖鎖修飾の研究

後藤 聡(立教大学理学部・教授)

免疫は私達の身体を守るのに重要な役割を果たしています。その免疫は、感染していないときには働かないように抑えられていなければなりません。一方、いったん病原体などが感染したときには免疫は十分に活性化されなければなりません。本研究では、その免疫の動的な制御に糖鎖が重要な役割を果たしていることを見出しました。非感染時には糖鎖が免疫の活性化を抑え、感染時には糖鎖が減少することで免疫を十分に活性化させていました。将来的には、糖鎖を使った免疫の活性化を制御する技術が期待されます。

神経回路形成因子LOTUSの発現制御による多発性硬化症の治療法開発

竹居 光太郎(横浜市立大学大学院生命医科学研究科・教授)

国の難病に指定されている多発性硬化症に見られる神経変性はNogo受容体という分子が関与していると報告されているため、私達が発見したNogo受容体の働きを阻止するLOTUSという分子とこの病気との関連について病態モデルマウスを用いて調べたところ、予想に反して、LOTUSは血中のリンパ球と結合して炎症を引き起こすサイトカインの一種をリンパ球から分泌させて炎症を引き起こす可能性が示されました。即ち、LOTUSはこの病気の発症に関連することが示唆されました。LOTUSが引き起こす炎症を止めることでこの病気の発症や進行を抑制することができるのではないかと考え、その方策を明らかにするための研究を行っています。

骨髄線維症幹細胞におけるエピジェネティック制御異常の分子基盤

指田 吾郎(熊本大学国際先端医学研究機構・特別招聘准教授)

原発性骨髄線維症とは骨髄の中で血小板を作る巨核球と顆粒球系細胞が腫瘍性に増殖して骨髄の線維化と造血障害に加えて、脾臓などで異所性造血を生じる予後不良ながんである。病気の原因として、遺伝子変異があり、約半数の患者でJAK2キナーゼの活性化変異があり、その他に共存する遺伝子変異としてエピゲノム制御因子であるEZH2やTET2が知られ、悪性度との関連が言われている。骨髄線維症マウスの造血幹細胞を採取して、患者の腫瘍細胞でも発現上昇が知られるHmga2を骨髄線維症の病態進展に責任のあるがん遺伝子として同定した。 今後、新規に作製したHmga2発現を造血幹細胞で特異的に誘導できるマウスを用いて、詳細な骨髄線維症の発症メカニズムを解明するとともに、標的遺伝子の検索を通した新規治療戦略の進展が期待できる。

リボソームRNAプロセシング異常という白血病発症の新しい概念の提示と検証

松井 啓隆(熊本大学大学院生命科学研究部 臨床病態解析学分野・教授)

近年の遺伝子解析研究の飛躍的な進歩により、白血病や骨髄異形成症候群といった血液腫瘍の原因となる遺伝子異常は、ほぼ全て明らかにされたといえます。一方で、こうした遺伝子異常が実際にどのように血液細胞を腫瘍細胞へと変貌させるのか、という根源的な疑問は、遺伝子解析だけで解くことができないものであり、地道な分子生物学的研究を必要とします。こうしたなか私たちは、最近血液腫瘍の原因となることがわかったDDX41という遺伝子の変異に着目し、この変異により作られる異常なDDX41が、リボソームと呼ばれる細胞内のタンパク質精製工場の機能を障害することを、多面的な解析手法により示してきました。今後さらに詳細なメカニズムを解明すべく、研究を続けていきたいと考えています。

ヒトにおける樹状細胞による抗原特異的制御性T細胞の誘導の研究

山崎 小百合(名古屋市立大学医学研究科・教授)

様々な免疫反応を抑制する制御性T細胞の抗原特異性を樹状細胞という特別な抗原提示細胞でコントロールする研究をこれまでマウスで行ってきた。抗原特異的な制御性T細胞を誘導する事ができれば、癌や感染症に対する免疫反応を抑制せずに、自己免疫疾患、アレルギー、移植片拒絶を治療する事が可能となる。本研究では、これをヒトの細胞に応用することを行った。ヒトの樹状細胞でも抗原特異的に制御性T細胞を誘導できる条件決定を行うことができた。

慢性ストレス・慢性疼痛による抑うつ・不安に関わる神経機構の解明

南 雅文(北海道大学大学院薬学研究院・教授)

ヒトを含む哺乳類は、身を守るための生体防御システムとして、抑うつや不安などの負情動生成機構を獲得・進化させてきたと考えられます。したがって、うつ病や不安障害のメカニズムを理解するためには、生体防御システムとしての負情動生成機構を明らかにした上で、患者や病態モデル動物における変化を解析することが必要となります。私たちは、分界条床核と呼ばれる脳部位に着目して研究を進め、分界条床核から扁桃体中心核に投射する神経細胞の活性化が不安情動を引き起こすことを明らかにした。また、慢性痛時に分界条床核内シナプス伝達の可塑的変化が起こることも見いだしています。これらの神経機構がうつ病や不安障害に関与している可能性があります。

遺伝子改変iPS細胞を用いたRBM20変異による心筋症発症機序の解明

宮岡 佑一郎(東京都医学総合研究所 生体分子先端研究分野 幹細胞プロジェクト・協力研究員)

拡張型心筋症は、心臓移植の最多の要因である。近年、RBM20という遺伝子の変異が拡張型心筋症の原因であることが明らかとなったが、ラットなどのモデル生物を用いた研究では、心筋症発症機序の理解が十分ではなかった。そこで、私達はヒトiPS細胞にRBM20の変異を導入し、心筋細胞へと分化させ、詳細に解析することにより、これまでに知られていなかったRBM20の変異が心筋症発症につながる分子機構を解明した。本研究の成果が、新たな治療法の開発につながることが期待される。

スギヒラタケ食中毒事件の化学的解明

鈴木 智大(宇都宮大学 バイオサイエンス教育研究センター・准教授)

スギヒラタケは東北、北陸、中部地方を中心に広く食用とされてきたキノコですが、2004年以降、スギヒラタケの摂食者が急性脳症を発病しました。本課題を遂行することによって、このキノコの毒性に関与する可能性がある毒性物質数種の構造決定を行う事ができました。この酵素は新たな酵素学として科学的価値だけでなく、様々な応用の可能性を秘めており、新たな酵素の創出も期待できます。さらにスギヒラタケ摂取患者に見られる病変は、既存の病気のものとは異なる未知の発生機序を強く示唆しています。今後も毒性メカニズムの解明のために、研究を継続する予定です。

1細胞を対象としたゲノムワイドDNA複製解析の開発によるDNAポリメラーゼ挙動の解明

大学 保一(東北大学 学際科学フロンティア研究所・助教)

個々の細胞には個性があります.遺伝情報であるゲノムを複製するシステムはすべての細胞において,全く同じパターンで起きるわけではありません.複製が開始される場所,細胞に多種存在するDNAを合成する酵素:DNAポリメラーゼの使われ方が異なっています.本研究では,1つ1つの細胞で,ゲノムDNA全体に渡り,個々のDNAポリメラーゼ分子の役割を明らかにする実験系の構築を行いました。

成熟心筋細胞の細胞周期と分裂能を調整する新規lincRNA(Linc-Heart)の同定と昨日解析

片岡 雅晴(慶應義塾大学医学部・特任講師)

本研究では成熟心筋細胞の細胞周期を調整する新規のlincRNAを同定し、linc-Heartと命名した。今後、linc-Heartが成熟心筋細胞の細胞周期を調整する詳細なメカニズムを解明し、心筋細胞周期の再活性化による病的心臓治療への応用の可能性を広げたいと考える。 本研究成果を応用することによって、これまでの試みから逸脱した全く新しい概念として、もともと存在している正常な成熟心筋細胞を細胞増殖させることにより治療する、という発想が可能な時代が到来する可能性がある。ヒト心筋梗塞後のリモデリング抑制や心筋症での心機能改善等へ応用できる可能性が広がり、臨床への将来的な貢献が多いに期待できる。

正の選択を介したT細胞の機能的教育が生体内免疫応答に果たす役割

高田 健介(徳島大学疾患プロテオゲノム研究センター・准教授)

リンパ球のひとつであるT細胞は、病原体や癌細胞に対する防御に不可欠な役割を果たしています。T細胞は胸腺という器官で非常に複雑な過程を経て作られます。私たちは、胸腺に存在する特殊な酵素の解析を通し、胸腺での分化の過程が、成熟した後のT細胞の機能を決定づけることを明らかにしてきました。今回、ワクチンの基本原理としても重要な免疫記憶というT細胞の機能に、胸腺での分化過程が関わっている可能性を見出しました。機能的に優れたT細胞が作り出される仕組みを理解することは、免疫の異常が関係する様々な病気の予防や治療、優れたワクチンの開発に役立つと期待されます。

L型カルシウムチャネルの正常な細胞内局在・機能維持におけるジャンクトフィリンの役割

中田 勉(信州大学医学部・講師)

骨格筋が正常に収縮するためには,L型カルシウムチャネルが結合膜構造と呼ばれる部位に集積することが必要不可欠である。しかし,その集積の詳細な分子メカニズムは明らかになっていない。本研究では,結合膜構造に存在するジャンクトフィリンと呼ばれる分子が,L型カルシウムチャネルに結合し,正常な結合膜への局在化や機能を調節していることを見いだした。今回得られた結果は,骨格筋の収縮メカニズムを解明する上で,重要な知見のひとつであると考えられる。

エピジェネティック修飾による初期化プログラムとキメラ形成分子機構の解明

岡村 大治(近畿大学農学部・講師)

我々はこの研究を通じて、小分子化合物 L-Ascorbic Acid (ビタミンC)の添加により、将来精子や卵子の元となる”マウス始原生殖細胞(PGCs: primordial germ cells)”から、新規多能性幹細胞が樹立することを見出しました (vcPGC細胞)。ビタミンCは、DAN脱メチル化に機能するTetファミリーと協調的に機能することが広く知られており、マウス始原生殖細胞はDNA脱メチル化によるエピジェネティック修飾の変化により、新規多能性幹細胞として再プログラム化されていると考えられます。本研究の成果は、細胞の初期化プロセスにおけるエピジェネティック修飾の役割を解明する、非常に有用なモデルとなることが期待されます。

ヒトiPS細胞を用いた2型糖尿病感受性遺伝子による糖尿病発症機序の解明

淺原 俊一郎(神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学・医学研究員)

日本人2型糖尿病患者では、膵β細胞の脆弱性が問題であることが明らかになっており、その原因の一つとしてKCNQ1遺伝子の変異が注目されています。我々は、Kcnq1変異マウスではKcnq1ot1という分子の量が減ることによって膵β細胞量が減少することを報告しましたが、ヒトでも同様のことが起こっているかは不明です。そこでヒトiPS細胞を膵β細胞に分化させ、マウスの実験結果と比較することにしました。今回の研究では膵内分泌細胞への分化を達成しましたが、膵β細胞への分化誘導には至りませんでした。今後はプロトコールを改良し、さらに実験を進めていく予定です。

NIMA関連キナーゼによる植物細胞の伸長成長制御機構の解明

本瀬 宏康(岡山大学・自然科学研究科 理学部・生物学科・准教授)

植物は分裂組織から根や葉・花などの様々な器官を形成します。このプロセスでは、個々の細胞がどの方向にどれくらい成長するかが重要になります。植物細胞の成長方向は、細胞内の骨格である微小管が一定の方向に並ぶことで規定されます。しかし、微小管がどのようなしくみで一定の方向にきれいに並ぶのかわかっていません。私たちは、NEKというチューブリンタンパク質をリン酸化する酵素が、余分な微小管を除去して整理整頓することで、微小管がきれいに並び、細胞の成長方向が決定されることを見いだしました。このしくみは陸上植物の進化の初期に獲得されたと考えられます。

細胞ストレス応答反応の解析から挑む「過食」の分子メカニズム

岩脇 隆夫(群馬大学大学院医学系研究科・講師)

満腹時および空腹時における摂食行動の制御機構は詳細なところまで明確になっている。しかしながらストレスが引き起こすとされる過食や拒食のメカニズムは殆ど分かっていない。私たちはマウスを用いた実験で次の意外なことに気が付いた。細胞の健康状態を悪化させるストレスを与えると過食行動が引き起こされるのである。この現象は「やけ食い」のような心的ストレス性の摂食異常を分子レベルで解明する糸口になるかもしれない。本研究を通じて私たちはストレス応答反応が果たしているであろう摂食行動制御に関する新たな役割を理解しつつある。

神経軸索再生誘導に必要な小胞体経由シグナルの解析

久本 直毅(名古屋大学大学院理学研究科・准教授)

神経細胞は、軸索という長い突起を介して電気信号を伝達しており、外傷などで軸索が切断されると神経として機能できなくなります。しかし、多くの神経は軸索を再生する能力を潜在的に持っています。今回、モデル動物である線虫C.エレガンスを用いた解析により、コラーゲンがDDRと呼ばれるコラーゲン受容体を介して切断された軸索再生を促進することを新たに発見し、その分子メカニズムを解明しました。本成果で得られた基礎的知見は、神経再生促進技術の改善・改良の手助けになることが期待されます。

細胞膜を貫通するDNAナノ構造体による分子デリバリーシステムの開発

遠藤 政幸(京都大学 物質-細胞統合システム拠点・特定拠点准教授)

本研究では、DNAナノ構造体の構築技術を利用し、ターゲット分子を細胞内に送り込む分子輸送システムを開発する。DNA鎖からなる分子針を持つDNAオリガミ構造体を用いて、脂質二重膜との相互作用を高速原子間力顕微鏡(AFM)によって観察した。次に、生化学反応系を導入したリポソーム(脂質膜)に、DNA構造体を結合し、ターゲット分子が脂質膜を貫通し、リポソーム内の生化学反応を開始できることを見出した。これら構築した技術を使って、細胞膜を貫通し、細胞内に分子を送り込む新たな分子システムの構築を検討する。最終的に細胞死の誘導、遺伝子発現の抑制、免疫増強など細胞機能制御や細胞応答を見る。

生物活性架橋多環式メロテルペノイドの全合成研究

中村 精一(名古屋市立大学大学院薬学研究科・教授)

バークレーオン類は、米国の銅鉱山跡にできた湖で採取された菌から見つけられた化合物群ですが、バークレージオンが抗がん作用を示すことで知られているなど、創薬のリード化合物として注目を集めています。本研究では、菌がこれらの化合物を作り出す方法を模倣することで、これらの化合物群を化学合成することに挑戦しました。本研究は、当該天然物はもちろんのこと、類縁構造を持つ化合物群の供給に道を拓くものであり、将来的な医薬品開発につながることが期待されます。

大脳皮質局所神経回路のシャンデリア細胞の機能的役割

窪田 芳之(自然科学研究機構生理学研究所・准教授)

大脳皮質は多くの領域から構成され,それぞれが機能分担をすることで知覚,運動,思考といった我々の知的活動を支えています。大脳皮質の局所神経回路は、多種類の神経細胞と他の領域からの入力線維から構成されており、非常に複雑な情報処理をしていると考えられています。この仕組みを知るためには、皮質内神経回路の構造と機能を明らかにする必要があります。本研究では、シャンデリア細胞やバスケット細胞と呼ばれている大脳皮質の抑制性神経細胞の機能的役割に焦点をあて、この局所神経回路の機能構造を解析しました。これらの神経細胞は、ターゲットの錐体細胞の活動に強力な抑制効果をもたらしているという結果を得ました。

ヒト末梢血と腫瘍組織中濾胞性制御性T細胞の特徴

ウィング ジェイムズ(大阪大学免疫学フロンティア研究センター実験免疫学・特任助教)

制御性T細胞(Treg)は、免疫恒常性を維持する上で重要な役割を果たしている。 TregのサブセットであるTfrは、抗体反応を制御することに特化しているが、特にヒトにおいてはよく理解されていない。 本研究では、ヒト血液中のTfrの詳細な特徴を明らかにした。この成果は、SLEおよび関節炎などの自己免疫疾患における役割を理解する上で重要である。 さらに、以前はナイーブなTregであると考えられていた細胞の大多数が、実際には新しいメモリーTreg集団である可能性があることを示し、これらの細胞の免疫学的役割およびその制御の理解と応用に重要である。

癌の浸潤・転移で認められる細胞形態・運動のモード変換を1分子構造変化から解明する

坂根 亜由子(徳島大学大学院医歯薬学研究部医科学部門生理系生化学分野・助教)

最近、癌細胞が転移・浸潤していく上で、細胞の形態および運動能の変換が重要な役割を担っていることが明らかになりつつある。したがって、癌の転移・浸潤過程で認められる細胞形態・運動能の変換の分子機構を理解し、その変換を自由に調節することが可能となれば、癌の転移・浸潤に対する新たな治療法の開発や創薬にもつながることが期待される。これまで本分子機構には多くの分子が関与し、それらの分子間相互作用が複雑に絡み合って成立すると考えられていたが、本研究ではJRABというたった1分子の構造変化に依存したアクチン細胞骨格の再編成が細胞の形態・機能の変換を時空間的に制御しているという独創的な成果が得られた。

ミトコンドリアに作用する新規アポトーシス阻害剤の開発

松本 健司(徳島文理大学薬学部・講師)

アポトーシスは、生理的な細胞死とも呼ばれ、癌、エイズ、アルツハイマー病など多くの疾病に関わっており、アポトーシス阻害剤はこれら難治性疾患の治療薬として期待されています。ボンクレキン酸(BKA)は、ミトコンドリアに作用するアポトーシス阻害剤として知られていますが、非常に高価で大量入手が難しいために詳細な作用機序は未だ十分には解明されていません。本研究では、我々の開発したボンクレキン酸の全合成を足掛かりに、大量供給法の確立および高活性な新規アポトーシス阻害剤の創製を目指しています。

慢性疼痛と不安神経症が共存する大脳神経可塑性の機序解明

古賀 浩平(弘前大学大学院医学研究科・助教)

慢性疼痛は侵害受容と心因性の要因からなり、前帯状回はこれら2つの要因に関わる重要な大脳皮質である。本研究では、前帯状回の抑制性シナプス伝達の可塑性に着目し、慢性疼痛が形成する大脳皮質の局所神経回路を理解することを目的に研究を行った。その結果、慢性疼痛モデルは前帯状回の抑制性シナプス伝達に可塑的な変化を示すことが明らかとなった。特に、GABAの放出が抑制される仕組みとして、GABAをシナプス小胞に貯蔵するトランスポーターである小胞GABAトランスポーターのタンパク質の発現量が関与する可能性が示された。

新規胃癌腹膜播種責任分子synaptotagmin13 の発現および機能解析

神田 光郎(名古屋大学医学部附属病院 消化器外科二・助教)

57751分子の網羅的遺伝子発現解析から、進行胃癌の転移再発形式の中で最も高頻度かつ難治性である腹膜播種に特異的発現するsynaptotagmin 13を発見しました。synaptotagmin 13を阻害することで、胃癌細胞の活動性を低下させ、腹膜播種形成を抑制できることが明らかになりました。 synaptotagmin 13は、すでに腹膜播種のある胃癌だけでなく、治癒切除術の後、腹膜播種を再発した胃癌でも高発現していることが分かりました。難治性の胃癌腹膜播種の新たな診断、治療への応用を目指しています。

網羅的エピゲノム解析を用いた機能的がん関連線維芽細胞の探索

下田 将之(慶應義塾大学医学部・専任講師)

がん組織は、がん細胞とそれを支える間質と呼ばれる成分から構成されています。がん間質に出現する活性化した線維芽細胞は「がん関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblast:CAF)」と呼ばれ、新たな治療標的の一つとして注目されています。本研究では、網羅的解析手法および生物学的機能解析手法を用いてCAFの層別化を行うとともに、機能的なCAFの細胞特性を明らかにすることにより、CAFを標的とした新規診断法および治療法の開発を目指した基礎的データの取得を行っていきたいと考えています。

スプライシング異常による未成熟mRNAの蓄積を防ぐチェックポイント機構の解析

甲斐田 大輔(富山大学 先端ライフサイエンス拠点・准教授)

本研究は、ヒトをはじめとした真核生物のDNA上にある遺伝情報が、どのようにして正確に読み取られ、タンパク質へと翻訳されるかという、生物学的に非常に本質的な質問の答えを探すものです。本研究の結果から、スプライシングの異常時には異常なpre-mRNAの蓄積を防ぐため、転写伸長を止めてしまうという一種のチェック機構が働いていると考えられます。

細胞外基質の固さの認知によって惹起される神経堤細胞集団の流動化の研究

栗山 正(秋田大学大学院医学系研究科・准教授)

細胞は集団で移動する方がバラバラの細胞が動くよりもはるかに効率が良いことが分かっています。しかし、がん細胞が塊になっていると狭い所で詰まってしまうため生体内でがんが集団移動するとは信じられていませんでした。先の研究でがんに似た神経堤細胞が適度に流動性を持つ集団として移動している事が分かりました。つまり「がんは水の様に器に沿う」のです。次の疑問として器の形を認識して形を変えるのか、元から水の様なのかがありました。本研究助成から、神経堤細胞が器を触って「硬さ」を感じて形を変えていることが分かってきました。この制御方法が分かればがんを閉じ込めることができるようになるでしょう。

高等植物における新規サイレンシング機構の解明

三柴 啓一郎(大阪府立大学大学院生命環境科学研究科・准教授)

遺伝子組換え植物は食料問題や環境問題などの解決に貢献できるものとして、世界中で研究開発が進められています。しかし植物種によっては遺伝子導入が困難なことや、導入した遺伝子が期待通りに働かないことが問題になることがあります。私たちは、組換え植物で広く利用されている35Sプロモーターが、園芸植物であるリンドウでは発現抑制が起きることを見出しています。本研究では、この発現抑制を引き起こす配列を明らかにしました。この成果は、組換え植物の発現制御技術の発展に役立つものと考えています。

多細胞システムの起源に単細胞ホロゾアのゲノム編集で迫る

菅 裕(県立広島大学生命環境学部・准教授)

動物のからだはたくさんの細胞からできています。細胞同士は連絡を取り合いながら高度な分業体制をとっており、このことは動物が地球のエコシステム上で優位な地位を占めるに至る一因となったと考えられています。しかし一方で、人類が苦しめられている癌は細胞増殖の制御が狂うことが原因で起きており、多細胞生物にしかありえない病気といえます。我々の研究は、動物に最も近縁な単細胞生物「単細胞ホロゾア」と総称される生物を材料に、動物多細胞性の進化の秘密を探り、多細胞システムが本質的に抱える問題にも迫ろうとするものです。

樹状突起の形成と再生における微小管の配列制御のしくみを解明する

ムーア エイドリアン(理化学研究所脳科学総合研究センター・チームリーダー)

神経系が正しく機能するためには、神経細胞は神経樹状突起を介して適切な伝達経路からの入力を受け取る必要がある。よって、神経樹状突起の発達に異常が起こると知的障害および神経発達障害を引き起こす可能性がある。本研究では、神経樹状突起の発育時に起こる【2つの】未知かつ独立して存在する微小管核による中心体形成について明らかにした。我々は、神経系の中心体形成過程において重要な役割を果たすことが知られている微小管核形成は、異なる分子メカニズムを介して起こること示した。また、微小管核形成は神経樹状突起が成長、枝分かれするのを促すことで、神経損傷などが起こった際に神経樹状突起が再生するのに非常に重要な役割を果たすことを示唆した。

成熟脂肪−血管内皮細胞ネットワークによる脂肪組織恒常性維持メカニズムの解明

池田 宏二(神戸薬科大学 臨床薬学研究室・准教授)

肥満は世界的に増加を続けており、その健康被害は甚大です。肥満時には脂肪細胞が病的に肥大し、脂肪組織が機能不全に陥る結果、全身のエネルギー・糖代謝が障害されると考えられていますが、その詳細な分子機構は明らかではありません。脂肪組織は非常に発達した血管網を有しており、その血管密度は脂肪細胞機能と密接に関わっています。私たちは脂肪細胞と血管内皮細胞のコミュニケーションに注目し、Nrg4という分子を発見しました。Nrg4は脂肪細胞から分泌され、血管新生を誘導して脂肪組織の血管密度を高めます。肥満時にはNrg4の発現が減少することが明らかとなり、Nrg4の発現を増やすことで肥満時にも脂肪血管密度を維持し、脂肪組織の機能障害を予防できると考えられます。

単独miRNAが転写因子をレスキューする

幸谷 愛(東海大学総合医学研究所・准教授)

細胞の運命決定においては転写因子が重要な働きをするというのが従来の一般的な考え方でした。私たちは、その考えに沿わない、新しい現象を見出しました。その機序を本研究課題で解析し、細胞運命決定には転写因子のみならず、小分子RNAという因子も深く関与することを明らかにしました。

成果報告によせて - 2014年度受賞者から

(受付順、敬称略)

高病原性クリプトコックス感染症に対する樹状細胞ワクチン効果の解析

金城 雄樹(国立感染症研究所真菌部第三室・室長)

クリプトコックスは土壌などの環境中に存在する真菌で、吸入により肺に病巣を形成します。免疫低下症例では、中枢神経系など他の組織に播種し、髄膜炎などの播種性クリプトコックス症をおこします。近年、北米を中心に、健常人にも播種性クリプトコックス症をおこす高病原性クリプトコックス感染症が問題となっています。私達は、樹状細胞ワクチンを開発し、高病原性クリプトコックス感染の制御機構を解析しました。樹状細胞ワクチンにより、高病原性クリプトコックスの増殖抑制効果を認め、その免疫学的機序を明らかにしました。

生体膜脂質トポロジーのナノスメール解析

藤田 秋一(鹿児島大学共同獣医学部・教授)

細胞は主に蛋白質、脂質、糖および遺伝子から構成されている。分子生物学の飛躍的な発展により、DNA・RNAと蛋白質についての知見は急速に増加している。しかしながら、生体膜を構成する主成分である膜脂質(脂質二重層)に関しては有力な解析技術が少ないために、まだまだ未知の点が多く残されている。私たちは脂質を観る新たな技術を開発し、生体膜における微細構造レベルでの膜脂質の分布解析を可能にした。この技術は膜脂質の機能解明に大きく貢献し、このアプローチによりもたらされた知見は、脂質代謝異常をはじめ様々な疾患の原因や病態の解明に役立つものと期待している。

拡張型レチナールタンパク質による光生命機能操作

須藤 雄気(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(薬学系)・教授)

ロドプシンと呼ばれるタンパク質は、ビタミンAを発色団とする光受容体で、様々な生物における光エネルギー変換にかかわっています。本研究では、(1)自然界から新しいロドプシンを探すこと、(2)それらを様々な手法により調べること、(3)その知見に基づき、様々な生命現象を光で操作するツールを開発すること、の3点を目的としました。実際に、幾つかのロドプシンの発見、形や昨日の決定、光神経制御を達成しました。

悪性脳腫瘍におけるがん代謝を利用した標的治療抵抗性機序の解明

増井 憲太(東京都医学総合研究所病院等連携研究センター神経病理解析室・主席研究員)

われわれが一貫して研究している脳腫瘍の一つである膠芽腫 (グリオブラストーマ) は、様々な治療に抵抗性を示す非常に悪性度の高い脳腫瘍です。本研究の結果、悪性脳腫瘍において近年注目されている細胞代謝の異常活性化が、治療抵抗性につながっているという新しい病態を見出すことができました。すなわち、脳腫瘍患者さんにおける栄養状態などの環境因子が、がんの成長や治療効果に大きな影響をおよぼすことが考えられます。今後は、これらのがんの特徴を逆に利用し、薬剤や食事などを介して、がん細胞の代謝活動へ介入することで、悪性脳腫瘍の代謝を標的とする新規の治療戦略開発に繋げていきたいと考えています。

網膜介在神経細胞の細胞運命決定機構の解明

佐貫 理佳子(大阪大学蛋白質研究所・助教)

眼の奥にある網膜は外界からの光情報を受容し、電気信号に変換して情報処理を行った後に脳へ視覚情報を送り出すユニークな神経組織です。今回の研究で、私たちは網膜の光情報処理に重要だと考えられているアマクリン細胞という神経細胞に注目しました。一言にアマクリン細胞といっても、30種類以上もの異なるタイプが存在し、各タイプが作りだされるメカニズムや機能はほとんど知られていませんでした。私たちは、Prdm13というたんぱく質が特定のタイプのアマクリン細胞を作り出すのに必須であることを発見しました。興味深いことに、Prdm13によって作りだされるアマクリン細胞を欠失した遺伝子改変マウスでは、視覚情報の時間的、空間的な認知感度が上昇する、つまり視覚機能が良くなることを見出しました。視覚機能が悪くなる遺伝子改変マウスは今まで数多くの例がありますが、視覚機能が良くなった遺伝子改変マウスはこれが世界で初めての例です。このことから網膜には視覚機能を抑制するタイプのアマクリン細胞が存在することが明らかとなりました。

3倍体プラナリアの減数分裂機構—染色体削減の雌雄差

松本 緑(慶應義塾大学理工学部・准教授)

プラナリアにはゲノムセットを2セットもつ2倍体と3セットもつ3倍体がいます。生物学の世界では3倍体の生物は減数分裂ができないために、無性生殖により自切で殖えるか、または単為生殖で殖えると考えられてきました。しかし、私たちは3倍体のプラナリアが有性生殖により殖えることを発見し、卵と精子が減数分裂の途中で染色体をセットで削減することを明らかにしました。本研究では、雌雄の削減時期が異なり、卵形成では減数分裂第一分裂期まで3倍体の状態で存在するのに対して、精子形成では雄性生殖幹細胞に分化したときにはすでに2倍体に染色体の削減が起こっていることを明らかにしました。

術後臓器癒着におけるケモカインシステムの病態生理学的役割解明および治療標的の同定

石田 裕子(和歌山県立医科大学医学部法医学教室・講師)

術後の臓器癒着は,胃や腸の開腹手術や帝王切開手術では90%以上の確率で生じるとされている.癒着が形成される原因として,手術の侵襲による臓器表面の損傷,感染や縫合糸等に対する異物反応などが挙げられる.癒着はこうした組織傷害に伴う炎症反応による組織傷害を修復する過程で,フィブリンが析出して形成されることが示唆されている.一方,ケモカインは,白血球走化能を有する生理活性物質であり,特に炎症の場において重要な役割を担っている.すなわち,ケモカインは臓器癒着に対する新規治療ターゲットとして極めて有望である.このような背景から,申請者は,癒着形成の分子メカニズムをケモカインシステムに着目して行い,その役割を解明することによって,ケモカインシステムを人為的に制御することができれば癒着形成の抑制・防止が期待できるのではないかと考えた.

睡眠覚醒を制御する神経回路網の同定と機能解析

櫻井 武(金沢大学医学系・教授)

オレキシンは、1998年に私たちのグループが発見した脳内物質です。オレキシンは、私たちヒトを含む動物が何らかの行動をとるために必要な覚醒を維持するために必須の分子です。今回、オレキシンを作る神経細胞がどのような機構で活性化されるのかを解明するために、この神経細胞に入力する神経細胞群を明らかにしました。その結果、感情を司る部分からたくさんの制御を受けていることが明らかになりました。オレキシンを作る神経細胞は感情が高ぶった時に活性化され、覚醒を支え、適切な行動をとるために働くことが推測されます。さらに、オレキシンを産生するニューロンの活性化は、覚醒を高めるだけではなく、ノルアドレナリンという別の脳内物質の作用を介して、感情や感情と結びついた記憶の制御にも関与していることをあきらかにしました。オレキシン受容体の拮抗薬はすでに不眠症治療薬として使われていますが、今後、PTSDなど不安や恐怖と関連する症状の改善にもオレキシン系に作用する薬が用いられる可能性があります。

脊髄内リズム運動生成回路の発生および機能解析

東島 眞一(自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター(生理学研究所)・准教授)

脊椎動物は、移動の際にリズミックな運動(哺乳類では歩行運動)を行います。このリズム運動を司る神経回路は脊髄内に存在していますが、その詳細は、50年以上の研究にも関わらずいまだに明らかになっていません。私は、ゼブラフィッシュという小型魚類を用いて、この課題の完全解明に迫っていきたいと考えています。シンプルなゼブラフィッシュを用いることにより、このリズム運動を司る神経回路の動作様式の基本原理に迫っていけるものと思います。基礎科学者の立場ではありますが、得られる成果は、脊椎動物全般に通用するものとなり、脊髄損傷からの回復等の応用研究に対しても有意義なものになると信じています。

SIRT7による新たな褐色脂肪細胞機能制御機構の解明

山縣 和也(熊本大学大学院生命科学研究部・教授)

サーチュインは代謝や寿命を制御する酵素であり、ヒトやマウスでは7種類のファミリー分子(SIRT1-SIRT7)が存在しています。これまでSIRT7の代謝作用は全く不明でしたが、我々はSIRT7の欠損マウスは高脂肪食で誘導される糖尿病に抵抗性を示すことを見出しました(Cell Metabolism 2014)。本研究の結果、褐色脂肪組織におけるSIRT7が熱産生やエネルギー代謝に深く関与していることが明らかになりました。褐色脂肪組織におけるSIRT7の抑制薬はエネルギー代謝を亢進させることで糖尿病やメタボリックシンドロームの治療に有用である可能性が明らかになりました。

糖脂質を介した視床下部の炎症における新規のメラノコルチン受容体シグナル制御機構

稲森 啓一郎(東北薬科大学分子生体膜研究所・准教授)

脂肪細胞がつくるホルモンであるレプチンは、脂肪の蓄積量に比例して分泌も増え、体重のコントロールに重要な役割をもちます。しかし、肥満症患者の多くは血中レプチン濃度が高いのにも関わらず、その作用(摂食抑制やエネルギー代謝亢進)が不全であるレプチン抵抗性にあることが知られています。これまでに、ガングリオシドとよばれる糖脂質がインスリン受容体の機能に関わることが示されていましたが、本研究において、脳の視床下部でガングリオシドが、レプチンおよびメラノコルチン受容体が関わる摂食調節やエネルギー代謝機能に役割をもつことが示唆されました。各受容体機能におけるガングリオシドの役割について検討を行っています。

DNA損傷時にエピジェネティックに発現誘導されるDDI2/3の発現機構の解明

沖 昌也(福井大学大学院工学研究科・准教授)

DNA 配列に依存しないエピジェネティックな発現制御機構は、癌をはじめとする様々な疾患への関与が報告され注目を集めています。従来までのエピジェネティックス研究は主に細胞集団を対象にして行われてきましたが、エピジェネティックな発現は個々の細胞によって異なっていることが明らかとなり1細胞での解析の重要性が指摘されています。本研究では独自に1細胞の世代を越えたエピジェネティクな発現状態変化を追跡するシステムを確立し、DNA 損傷を受けたときにのみエピジェネティックに発現状態が変化する DDI2/3遺伝子を見出しました。今後、どのようなタンパク質がどのようなメカニズムでDDI2/3遺伝子の発現を調節しているかを明らかにすることにより、新たな転写調節機構の発見が期待できます。

神経障害性疼痛に対する新薬の加工ブシからの開発

牧野 利明(名古屋市立大学大学院薬学研究科・教授)

オキサリプラチンという抗がん薬は、副作用として神経障害性疼痛を高頻度で発症し、それが用量や治療継続の制限因子となっています。本研究では、マウスにオキサリプラチンを投与した時に生じる神経障害性疼痛に対する加工ブシ(キンポウゲ科ハナトリカブトの根を減毒処理した生薬で、さまざまな漢方薬に配合されます)の緩和作用について検討し、その有効成分としてneolineを発見しました。本化合物はこれまで鎮痛活性は知られておらず、神経障害性疼痛の予防、治療のための新薬のシーズとして利用が可能と考えられます。

骨形態を制御するゲノムシステムの解明

田村 宏治(東北大学大学院生命科学研究科・教授)

骨は脊椎動物の化石記録にも残る貴重な構造であり、また哺乳類の四肢などの器官再生を考える上で無くてはならない存在でもあります。ある動物群に特徴的な骨の形態(たとえばヒトを含め霊長類は5本指だが鳥類はみな3本指)や長さ(たとえばクジラの前腕骨は短いがフラミンゴの大腿骨は長い)がどのようなメカニズムで制御され作られるのかは、進化を考える上で、また定まった形態を再生させるために、重要な情報となります。本研究では、ゲノム情報と遺伝子機能の面からいくつかの分子(遺伝子)に着目し、ある動物群に特有の骨形態や骨の長さを生み出すメカニズムを解析しました。今後いくつかのメカニズムの関わり合いを調べていくことで、動物に固有の骨形態の形成機構を明らかにできるものと期待します。

水と塩の摂取行動の制御を司る神経回路の研究

檜山 武史(基礎生物学研究所統合神経生物学研究部門・助教)

ヒトを含む哺乳動物は、脳の感覚性脳室周囲器官において、体液のナトリウムレベルを監視するとともに、アンジオテンシンIIなどの血中ホルモンを介して末梢からの情報を受け取っています。この情報に基づいて、飲水/塩分摂取の制御と腎臓における排泄/再吸収の制御を統合的に行っています。我々は、脳のナトリウムレベルセンシング機構を明らかにしてきました。本研究成果は、そのような体液情報に基づいた水分/塩分摂取行動の制御を司る神経回路の全容解明につながるものです。

高度縮環型アルカロイド・ユズリミン類の網羅的合成法の開発と機能開拓

早川 一郎(岡山大学大学院自然科学研究科化学生命工学専攻・准教授)

アルツハイマー型認知症の患者様には「アリセプト®」のようなアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が処方されますが,現在販売されているアルツハイマー型認知症の処方薬はわずか3種類程度しか選択肢がなく,新たな薬のリード化合物が求められています.私達は,未だ詳細な生物活性の報告例のないユズリミン類が,既存の処方薬であるガランタミンと3次元構造が類似していることに着目し,ユズリミン類の合成を検討しました.これまでにユズリミン類の高度に縮環した全炭素骨格と,4つに分類される複素環部分構造を全て合成できる共通中間体を合成しました.今後,ユズリミン類をリード化合物としたアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の開発を目指します。

1分子計測法によるイオンチャネルゲーティングの研究

井出 徹(岡山大学大学院自然科学研究科・教授)

イオンチャネル蛋白は、生体膜のイオン透過性を制御している蛋白質で、生命活動に於いて大変重要なものであることが分かっています。ところが、この蛋白質が働く詳しいメカニズムは未だに分かっていません。そこで、私達は、蛋白がどのように動いたときに、活性がどのように変わるかを測る装置を開発しようと考えました。人工的に作った膜にこの蛋白質を組み込み、1個の蛋白質を透過する電流を計測することに成功しました。また、蛋白質1つずつの動きを見ることも出来るようになりました。この方法で神経細胞のチャネル蛋白質の動作メカニズムを解明しようと考えています。

哺乳類概日時計における温度補償性維持機構の解明

平岡 義範(神戸学院大学薬学部・助教)

生物には概日時計が備わっており、約24時間周期のリズム(概日リズム)を刻んでいる。概日リズムは温度変化に関わらず、ほぼ一定の周期を保つ“温度補償性”があり、バクテリアから哺乳類培養細胞にまで認められている生物時計の特徴の一つであるが、その詳しいメカニズムは明らかにされていない。したがって、我々は遺伝子Xをノックアウトしたマウスを用いて、生物時計の温度補償性のメカニズム解明を目指した研究を行っている。

がん関連分子パターンによる抗腫瘍自然免疫応答惹起機構の解明と制御

生島 弘彬(東京大学生産技術研究所・特任助教)

古くから体内の免疫系ががん細胞を認識し排除することが分かっていましたが、その機構としては、獲得免疫系によるがん細胞の認識機構がよく知られており、免疫系のもう一つの軸である自然免疫系がどのようにしてがん細胞を認識し、その排除を促しているのか、という点については不明な点が多く残されていました。本研究成果は、自然免疫受容体ががん細胞を認識し、その排除を促していることを世界に先駆けて明らかにするものであり、今後、自然免疫系の活性化を通した、新しいがんの治療法や予防法の開発へとつながると期待されます。

免疫細胞の分化と動きを制御する新規シグナル分子の機能解析

田中 芳彦(福岡歯科大学機能生物化学講座感染生物学分野・教授)

アレルギーの病態にはT細胞による免疫応答が重要な役割を果たすことが知られていますが、疾患を引き起こす分子メカニズムについては不明な点が多く残されています。我々はアレルギー反応に関する研究を進める過程で、T細胞に新しいシグナル伝達分子が発現することを見出しました。この分子を標的としてヘルパーT細胞における発現パターンとサイトカイン産生に及ぼす影響などを解析しました。その結果、アレルギー応答の制御に重要な役割をもつ可能性が認められました。今後、ヘルパーT細胞の分化の制御機構を明らかにするとともに、アレルギーの病態解明と新しい治療法の開発へと研究を展開していく予定です。

リンパ球恒常性と悪性腫瘍における亜鉛シグナルの役割とその分子機序の解明

深田 俊幸(昭和大学歯学部・助教)

亜鉛は健康維持に必須な微量元素であり、亜鉛の輸送体が体内の亜鉛量を一定に保っています。亜鉛輸送体が調節している亜鉛は情報の運び屋と機能しており、その働きは「亜鉛シグナル」と呼ばれています。亜鉛シグナルは健康と病気を統御する重要なシステムであり、生命科学における新しい研究分野です。 亜鉛の輸送体が調節する亜鉛は情報伝達の担い手として機能し、亜鉛シグナルと呼ばれています。亜鉛シグナルは健康と病気を統御する新たなシステムとして注目されています. 亜鉛輸送体に関する申請者らの研究結果は、亜鉛シグナルの異常が免疫機能を司るリンパ球の一つであるB細胞の機能破綻と血液腫瘍に関与することを示すものです。B細胞の運命決定に関わり、がんへの関与が示唆される亜鉛シグナルに関する私達の研究結果は、免疫応答と発がんの新たなメカニズムの解明と、免疫制御剤や制がん剤等の新たな薬の開発につながる可能性を有していると思われます。今後もさらに本研究を推進して、亜鉛の健康と病気への関わりを追求する所存です。

植物の小胞体ストレスを細胞レベルで可視化する実験系の確立

岩田 雄二(大阪府立大学生命環境科学研究科・助教)

本研究では、植物における環境ストレス応答・耐性において重要な役割を果たしている小胞体ストレス応答について、シロイヌナズナを用いて研究を行った。具体的には、小胞体ストレスが起こっている組織・細胞の高い解像度での可視化を試みた。その結果、ストレスを受けている組織・細胞を蛍光顕微鏡により特定することができる形質転換シロイヌナズナを作出することが出来た。本研究による成果は、植物における小胞体ストレス応答の分子メカニズムの理解やストレス耐性作物の作出へ向けた基礎的知見に繋がると考えられた。

マクロファージ飲作用を標的とした動脈硬化治療戦略の構築

宮崎 拓郎(昭和大学医学部生化学講座・助教)

現行の動脈硬化症の病態生理学は、マクロファージがスカベンジャー受容体依存的に酸化LDLを取込み、その結果コレステロールが血管壁に蓄積する、いわゆる「酸化LDL仮説」に基づく。しかし、生体内に存在するLDLの多くは受容体が認識するほど高度に酸化されておらず、同仮説だけで血管壁のコレステロール貯留を合理的に説明することは難しい。近年提唱されている飲作用(pinocytosis)モデルでは、LDLの取込みが酸化度に依存せず、酸化LDL仮説に修正を迫るものとして注目を集めているが、その分子機構は明らかになっていない。本研究では、細胞内タンパク質・カルパイン-6の消去により、飲作用を介したマクロファージ泡沫化が抑制可能であることを解明した。これは動脈硬化症に対する極めてユニークな介入方法と期待される。

クロマチンリモデリングを介したDNA損傷ストレス応答機構と発がんメカニズムの解明

増田 清士(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部人類遺伝学分野・講師)

本研究では、これまで知られていないHIPK2スイッチによるcontext-dependentなDNA損傷ストレス応答機構と、HIPK2が損傷領域の動的クロマチン構造変換を介してDNA修復に関わる分子機構を明らかにすることを目的とした。本研究の結果から、DNA損傷ストレス時におけるHIPK2遺伝子の新しい細胞内機能を見いだし、HIPK2が大腸がん細胞株においてクロマチン構造制御を介して広範囲の遺伝子発現を制御している可能性があるという重要な知見を得ることができた。本研究の結果をさらに発展させることにより、DNA修復機構とアポトーシス誘導機構を切り替える分子スイッチとしてのHIPK2の役割とその下流の分子機構を明らかにできれば、DNA損傷にストレスに対する細胞のDNA修復、がん化抑制反応とその障害によるがん化促進機序について新たなモデルを提唱でき、この分子スイッチを修飾する低分子化合部の探索によって、画期的ながん予防法開発のための基盤となる知見を与えると考えられる。

EGF受容体の「二量体化アーム」を捕捉する新規蛍光プローブの創製

水口 貴章(東京医科歯科大学生体材料工学研究所生体機能分子研究部門・助教)

ヒト上皮成長因子(EGF)受容体は、多くのがん細胞で過剰発現が観測されている細胞膜タンパク質です。この受容体の無秩序な活性化が、がん細胞の異常増殖や増悪化を引き起こします。本研究テーマでは、EGF受容体の「構造変化阻害」や「二量体化阻害」といった新しい抗がん薬リードを創出するための新しい道具となる蛍光分子の開発を目指しています。また、この蛍光分子は、既存の抗がん薬を選択する際の診断薬の開発にも繋がる可能性があります。

アポA-I模倣ペプチドを用いた末梢動脈疾患に対する新規治療戦略

今泉 聡(福岡大学医学部心臓・血管内科学・講師)

下肢の動脈が動脈硬化により閉塞する閉塞性動脈硬化症などの患者さんは、日本に約600万人以上いると推測されています。本研究では、善玉コレステロールをもとに我々が人工的に合成した薬(FAMP)の、閉塞性動脈硬化症に対する効果を調べました。その結果、FAMPが閉塞性動脈硬化症の改善効果を有し、全く新しい治療薬となる可能性があることを発見しました。この研究をさらに発展させ、動脈硬化性疾患に苦しむ患者さんのお役に立てればと思っております。

RNAウイルスによるレトロエレメント制御機構の解析

本田 知之(京都大学ウイルス研究所・助教)

RNAウイルスは、一般的にRNAのみでその生活環を完結させると考えられてきた。しかし、最近私たちは、RNAウイルス感染細胞において、ウイルス配列由来のDNAが存在することを見出した。この現象は、LINE-1と呼ばれるレトロトランスポゾンにより制御されている可能性が示唆されている。本研究では、RNAウイルスの一つであるボルナ病ウイルス(BDV)とLINE-1との相互作用のメカニズムを解明することを目的とした。その結果、両者を結ぶ新規宿主因子を同定することができた。本研究の成果は、今後さらにRNAウイルス感染細胞内に存在するウイルス配列DNAの意義を検証していく上で、基盤となる成果となった。

安全かつ効率的な心筋直接リプログラミング法の開発と心臓再生

家田 真樹(慶應義塾大学医学部・特任講師)

我々はこれまでに心筋リプログラミング遺伝子をレトロウイルスベクターで遺伝子導入することで直接心筋作製可能であることを示してきた。しかしながら臨床応用には挿入変異のない安全なベクターの開発が必要と考えて、センダイウイルスベクターによる安全な心筋誘導確立を目指して本研究を行った。これまでに心筋リプログラミング遺伝子を発現するセンダイウイルスベクターを作製して、このベクターを用いることでマウス線維芽細胞を直接心筋細胞にリプログラミングすることに成功した。

腸管特殊上皮M細胞におけるバリア欠損メカニズムの解析

長谷 耕二(慶応義塾大学薬学部・教授)

腸管の粘膜は、食餌とともに摂取される病原菌やウイルス、さらには100兆個にも及ぶとされる腸内常在細菌に曝されており、常に感染の危険と隣り合わせにある。これら大量の外来抗原に対応するため、粘膜には粘膜免疫系と呼ばれる特殊な免疫系が発達している。腸管免疫系に存在するM細胞は、粘膜面の抗原の一部をサンプリングし、免疫応答を促す。本研究ではM細胞は粘膜面の感染排除と炎症の抑制に重要な役割を果たすことを明らかとした。今後はM細胞に積極的に抗原を取り込ませることで免疫力を高めるM細胞標的ワクチンの開発が期待される。

H3K9メチル化エピゲノムによる性決定遺伝子Sryの発現制御機構の解明

黒木 俊介(徳島大学疾患酵素学研究センター応用酵素・疾患代謝研究部門・助教)

ほ乳類の性決定Sryは同定されて20年以上たちますが、その発現を制御する仕組みはほとんど分かっていません。今回わたしたちは、ヒストン脱メチル化酵素のひとつJmjd1aとヒストンメチル化酵素GLPの間で拮抗したヒストンメチル化の微細な制御が、Sryの発現に重要であることを明らかにしました。

形質細胞様樹状細胞による慢性炎症疾患制御の解明

高木 秀明(宮崎大学医学部医学科感染症学講座免疫学分野・助教)

形質細胞様樹状細胞(pDCs)は多量のI型インターフェロン(I型IFN)を産生する免疫細胞であり、抗ウイルス免疫応答を初めとした様々な免疫反応に重要な役割を果たしています。その一方でpDCsとI型IFNは、全身性エリテマトーデス(SLE)や尋常性乾癬といった自己免疫疾患への関与が考えられておりますが、その詳細なメカニズムについてはこれまで不明でありました。本研究ではpDCsを生体内で特異的に消失させた遺伝子改変マウスを用いて検討した結果、自己免疫疾患の発症と増悪にpDCsが重要な役割を担っていることを明らかにしました。本研究成果を応用することで、pDCsの機能制御を基にした新たな自己免疫疾患に対する治療法の開発が期待されます。

不斉1,3−アルキル移動反応の開発を基軸とする医薬品候補化合物の合成

椴山 儀恵(自然科学研究機構分子科学研究所生命・錯体分子科学研究領域・准教授)

オレフィン末端に置換基を有する光学活性ホモアリルアミンは、医薬品候補化合物の合成中間体として有用な化合物です。今回、私たちは、市販で容易に入手可能な酸触媒を用いることで、良好な化学および光学収率で、オレフィン末端に置換基を有するホモアリルアミンを合成することに成功しました。

NAD代謝を標的とした新規抗がん剤創薬のための基盤研究

中川 崇(富山大学先端ライフサイエンス拠点・特命助教)

がん細胞は、正常細胞と異なった特異的な代謝経路を持つことが知られています。このことは、がん細胞が非常に高い増殖性を持つことと関連があり、これらをターゲットとした抗がん治療の開発が期待されています。今回の研究は、こうしたがん特異的な代謝経路に着目した研究であり、特に今回の研究の標的分子であるPRPSを阻害することで、放射線治療や抗がん剤によるがん治療に対して、抵抗性のあるがん細胞を細胞死へと追いやることができると考えています。

筋再生能を保持した骨格筋幹細胞の試験管内増殖法の開発

瀬原 淳子(京都大学再生医科学研究所・教授)

幹細胞には、多分化能を持つ組織幹細胞やIPS細胞が良く知られているが、骨格筋にある幹細胞は、骨格筋が損傷を受けた時その再生を担う、骨格筋特異的な幹細胞です。もし、この幹細胞を試験管内で無限に増殖させることができれば、それは癌化を心配することなく骨格筋に移植することができ、筋ジストロフィーなどの疾患治療に役立てることができるはずです。私達の研究は、その培養法を確立しようとするもので、成功に近づいていると確信しています。

概日時計のロバストネスを制御する細胞内機構の解析

明石 真(山口大学時間学研究所・教授)

24時間周期の体内時計である概日時計は、生物が地球の自転によって生じる毎日の環境変化に適応するために必須の生体機能である。概日時計が地球の自転から脱同調を起こすと、身体機能が低下するだけにとどまらず多様な疾患の原因にもなるため、太陽光などによる概日時計の調節メカニズムの理解は重要である。これまで、光刺激が概日時計中枢(視交叉上核)に作用すると、タンパク質リン酸化酵素が働くことで概日時計が調節されることがわかっていました。今回の研究ではこの酵素の機能を抑制する因子が正常に機能することが、概日時計制御において重要であることを示しました。

2ヨウ化サマリウムを用いる新規環化反応の開発と天然物合成への応用

梅澤 大樹(北海道大学院地球環境科学研究院・准教授)

本研究では、有用化合物にしばしば含まれる複雑な環状構造を、2ヨウ化サマリウム(SmI2)を用いて一挙に構築することを目的としており、2種類の環化反応を検討した。1つ目の反応は、新しい概念を含むアルドール反応であり、環化前駆体を効率的に合成するとともに、アルドール反応を検討した。現在、生成物の構造を確認している。2つ目は新規共役付加反応であり、本反応の開発の結果、生命科学分野で有用な分子ツールとして用いられるカイニン酸を効率的に合成できた。

GPCRのエンドサイトーシス機構の網羅的解析

十島 純子(早稲田大学理工学術院・講師)

体を構成する最小単位である「細胞」の表面には「受容体」という装置があり、外界の情報を細胞の中に伝える働きをしています。私が研究の対象としたGタンパク質共役型受容体(GPCR)は、受容体の中でも最も多く、様々な生理作用を調節します。そのため、GPCRを標的とした薬品は全体の50%以上もあります。私はこれまで、GPCRが細胞表面から細胞内へと取込まれることで(エンドサイトーシス)、そのシグナルを不活性化する機構について、モデル生物である酵母細胞を用いて調べてきました。本研究で、私はGPCRのエンドサイトーシスに関わる遺伝子を網羅的にスクリーニングし、これらの遺伝子が担う役割について明らかにしました。最終的には、GPCRの不活性化を人為的にコントロールする技術を開発し、創薬や治療に生かしたいと考えています。

初代培養細胞を用いた細胞キラリティの検出とその形成機構の解析

笹村 剛司(大阪大学大学院理学研究科・助教)

我々人間の内臓など、多くの生物は左右非対称な器官を持ち、脊椎動物ではその形成にNodalシグナルが重要です。しかし、これとは別に個々の細胞が立体的な左右非対称性、すなわちキラリティを持つことで左右非対称な器官が形成されるしくみが近年報告されています。私は、ショウジョウバエのマクロファージにおいて、新規の細胞キラリティを見出しました。今後、この細胞キラリティの制御機構を研究することにより、多くの生物に共通な新規の左右非対称性形成機構を見出すことができるのではないかと考えています。

単一細胞ネットワーク解析による情報処理機構の解明

小坂田 文隆(名古屋大学大学院創薬科学研究科・講師)

脳はおよそ1,000億個もの膨大な数のニューロンが神経回路を形成することにより情報を伝達・処理し、複雑な高次脳機能を発揮する。その神経回路の破綻は、神経・精神疾患などを引き起こす原因と考えられる。したがって、脳・神経回路の動作原理の解明、それに基づいた神経・精神疾患の病因解明および予防・治療法の開発は極めて重要な研究課題である。近年神経科学領域では、二光子顕微鏡、光遺伝学、カルシウムや電位に感受性の蛍光タンパク質、ウイルスベクター、脳の透明化、ゲノム編集技術など、大きな技術革新があり、不可能と考えられていた実験アプローチが可能になり、これまで解明できなかった科学的問いに答えることができるようになりつつある。今回開発した狂犬病ウイルスのシステムも神経回路研究に広く使用され、将来的には難治性疾患への治療開発へとつながると期待される。

大脳皮質での脳情報統合機構解明への新たな基盤構築

佐藤 真(大阪大学大学院連合小児発達学研究科・教授)

大脳皮質の異なる頭葉間を結ぶ神経回路(長連合線維)は外界からの情報を統合して価値判断・意思決定を行う過程において重要であると考えられていますが、具体的にどのような役割を果たしているかはまだ解明されていません。我々は、マウスをモデルに長連合線維の神経活動を任意にコントロールできるマウスを作製して、その機能を明らかにしようとしています。

新規アリールエーテル化反応を利用した生理活性天然物ウスチロキシンDの合成

佐藤 格(茨城大学理学部・教授)

ウスチロキシン類は稲コウジカビより単離された細胞内チューブリンの集合阻害活性を示す化合物群である。その構造は環状ペプチドであり,光学活性な第3級アルコールとフェノール間にエーテル結合を持つ。誘導体のライブラリの構築も志向してその合成を行おうとした場合,ペプチド鎖のエピ化などの副反応を起こさない極めて穏やかな条件でのエーテル構築が必須になる。我々は開発したトリアリールビスマスをアリール源とする3級アルコールのアリールエーテル化によりペプチの異性化を伴わないエーテル形成に成功した。またさらに合成を進めウスチロキシンDの全合成を達成した。

骨格筋-肝-脂肪ネットワークを標的とした抗生活習慣病治療薬創製の分子基盤構築

田中 廣壽(東京大学医科学研究所附属病院抗体・ワクチンセンター・教授)

ヒトなどの哺乳動物は、栄養を効率よく、脂質、タンパク質、および糖質として体内に貯蔵します。主に、脂質は脂肪組織、タンパク質は骨格筋と、別々の臓器に貯蔵され、過剰なカロリーを脂肪として蓄積しやすくなっています。食べ過ぎると骨格筋は増えずに脂肪が増えて肥満につながり、糖尿病、生活習慣病などの罹患リスクを上昇させます。この過剰なエネルギーが脂肪に貯まりやすい仕組み、言い換えれば、骨格筋に貯まりにくい仕組み、はいまだにわかっていません。わたしたちは、「骨格筋と脂肪が肝臓を介して情報のやりとりをし、体内のエネルギーの流れや貯蔵場所と量を制御している」、ことを発見し、肥満や生活習慣病などの予防法や治療法の開発に応用しています。

成果報告によせて - 2013年度受賞者から

(受付順、敬称略)

化学遺伝学アプローチによるDNA修復マルチパスウェー解析

廣田 耕志(首都大学東京理工学研究科・教授)

本研究では、ゲノムメインテナンスにおける様々な経路間の関係を試験し、お互いに相補的となる経路の関係の解明を行いました。ガン細胞DNA修復経路が一般的に減弱しており、減弱経路と相補的関係にある経路を阻害できれば、副作用のない新しい薬剤治療が可能となります。本研究ではさらに、このような阻害化合物の探索プラットフォームを構築し、治療に使える候補化合物を複数得ました。本研究の成果が、今後の新たなガン治療に生かされ、ガンを制圧するための一助となれば幸いです。

複雑な生命系に利用できるナノ相関顕微鏡の開発

島袋 勝弥(宇部工業高等専門学校物質工学科・講師)

生物の体の中には無数のタンパク質が詰まっています。このタンパク質が共演することで細胞が分裂できたり、動いたりすることができます。これまでの実験技術はある特定のタンパク質を取り出して調べることが主でした。しかし、これではタンパク質の共演は分かりません。そこで、我々はナノ相関顕微鏡という方法を作り出し、タンパク質の共演を調べる実験系を立ち上げました。

誘導型転写因子NF-κBのp65サブユニット蛋白と相互作用する宿主因子の同定と、蛋白分子間相互作用(PPI)を標的とする新たな悪性腫瘍に対する治療戦略

岡本 尚(名古屋市立大学大学院医学研究科・教授)

この研究はがん・白血病が多くの炎症性疾患と共通に持つ分子基盤である転写制御因子のNF-kBという分子に注目して進めています。生体内のどのような分子も生物学的活性を発揮するためには別の分子と特異的に結合し作用を及ぼし合う必要があります。我々はNF-kB分子と結合する分子を新たに7種類発見し、その数は増え続けています。また、構造生物学や計算化学を使ってこれらの相互作用する局面の構造を解析し、効率よく特異的な薬剤の開発にも取り組んでいます。

褐色脂肪組織機能不全に伴う骨量減少分子機構の解明:骨粗鬆症新規治療戦略としての褐色脂肪細胞移植の有効性の検討

川井 正信(大阪府立母子保健総合医療センター研究所・主任研究員)

骨粗鬆症の予防・治療は、非常に重要な医学的課題です。この課題を克服するには、骨粗鬆症の発症機序を充分に解明する必要があります。本研究課題では、褐色脂肪組織に注目し、その機能低下が骨粗鬆症の原因となる可能性を示しました。本研究結果から得られた知見は、褐色脂肪組織の機能改善が、骨粗鬆症の治療標的になりうることを示すものであり、健康長寿社会の実現に資する結果であると思われます。

Sema3E-PlexinD1シグナルによる新生ニューロンの移動停止位置の制御機構

澤田 雅人(名古屋市立大学大学院医学研究科・特任助教)

近年の研究で、生後の脳にも神経幹細胞が存在し、たえず新生ニューロンを産生していることが分かってきた。産生された新生ニューロンは、脳内を遠くまで移動し、適切な場所で移動を停止して成熟ニューロンへと分化する。本研究では、移動中の新生ニューロンの「かたち」を調節することが、脳内における移動停止位置を決めることを見出した。本研究結果は、脳がつくられるしくみを解明するだけでなく、脳傷害後に再生するニューロンを脳内で適切に配置するメカニズムとして、中枢神経系の再生医療に貢献する可能性がある。

サリチル酸で誘導される植物のウイルス抵抗性の分子機構

中原 健二(北海道大学大学院農学研究院・講師)

動くことの出来ない植物は、病原体への暴露から簡単に逃れることは出来ないことから、自然免疫と呼ばれる、予め備わった防御機構が発達している。その制御に植物ホルモン、サリチル酸が主要な役割を果たす。例えば、一度病原体の攻撃をうけた植物では、サリチル酸が全身で蓄積し、次の病原体の攻撃に対し、より強い防御反応で病原体の感染を防ぐ。しかしながら、なぜ、サリチル酸が蓄積するのか、なぜより強い防御反応を示すのか分かっていなかった。本研究で、カルモジュリン様タンパクrgs-CaMが関わっていることを証明し、その主要なメカニズムを明らかにすることが出来た。

ミトコンドリアのストレス応答を担うリン酸化シグナルの解明

武田 弘資(長崎大学薬学部・教授)

ミトコンドリアは、細胞のエネルギー産生を担う細胞内小器官として古くから研究されてきましたが、近年、細胞内代謝にとどまらず、細胞の生死の制御や病原体感染応答などにおいても、きわめて多彩な機能を持つことが分かってきました。本研究では、そのような機能の制御に働く新たなタンパク質に注目して研究を進めることで、ミトコンドリアの機能がどのような仕組みで調節されているか、ミトコンドリアがどのように細胞のストレス応答に関わるのかの一端が明らかとなってきました。今後はそのような機構と様々な疾患との関連についても探って行きたいと考えています。

慢性的な低酸素環境が引き起こすがん悪性化の分子機構の解明

中山 恒(東京医科歯科大学難治疾患研究所・准教授)

がんは、がん化した細胞が無制限に増殖をし続けた結果として生じる病気です。がんが進行し、悪性化していく過程では、がん細胞そのものが保持する増殖能に加えて、がん細胞をとりまく体内の微小環境(酸素、栄養、pH等)も重要な要素となります。本研究は、そのような微小環境のうち「酸素の低い状態(低酸素)」に着目して、がんが低酸素環境に適応して、増悪化していく分子機構を明らかにすることをめざして実施しました。その結果明らかとなった慢性期低酸素下での遺伝子発現を調節するメカニズムは、がんの低酸素環境適応能力を阻害する新しいがん抑制方法の開発に結びつくことが期待されます。

形質膜タンパク質品質管理に関わるユビキチンプロテアーゼの同定

沖米田 司(関西学院大学理工学部・准教授)

細胞表面に存在する構造異常タンパク質はユビキチン化を受け、形質膜から除去されます。この形質膜タンパク質品質管理機構は、嚢胞性線維症など様々な病態に関与することが知られています。私たちは阻害剤スクリーニングにより、形質膜に存在する異常タンパク質の分解を制御する脱ユビキチン化酵素を同定しました。今後、形質膜異常タンパク質のユビキチン化制御機構を明らかにすることで、様々な病因の理解や治療法開発に貢献することが期待されます。

触媒的不斉合成を基軸とした新しい医薬リードの創製:WecAを阻害する抗超多剤耐性結核剤,およびがん-間質相互作用に働く抗がん剤

渡辺 匠(微生物化学研究会微生物化学研究所・主席研究員)

既存の抗結核剤が無効な超多剤耐性結核菌に有効な物質,および制圧への途半ばであるがんに対し新たなメカニズムで奏功する化合物の合成を行うことによる,画期的新薬開発の基盤構築を目的とした研究である.前者としてはリード候補,カプラザマイシン類の効率的合成の達成と天然物由来の半合成法では入手困難な誘導体ライブラリ構築への応用を図り,後者としては「正常細胞を標的とした抗がん剤」のリードとなり得るロイシノスタチンAの合成法の開発と,当該生物活性に必要な構造要件の同定に向けた知見の蓄積を得た.

ピリドン類の位置選択的直接官能基化法の開発に基づく医薬品候補化合物の創出

平野 康次(大阪大学大学院工学研究科・助教)

ピリドンは数多くの生物活性化合物や医薬品に含まれているため、ピリドン環の効率的な修飾を可能にする新手法の開発は合成化学的な観点からのみでなく、新たな医薬品創出という視点からも重要な研究課題です。しかし、ピリドンには最大4カ所の反応点が存在し、その反応位置を制御することは容易ではありません。我々は、着脱容易な配向性官能基と安価な銅の触媒作用を組み合わせることでこの課題を克服し、最も反応性が乏しいとされるC6位での修飾に成功しました。本手法を用いることで、ピリドンを基盤とする新たな医薬品の創出が加速できると期待されます。

対称分裂を保障する非対称な細胞膜伸長メカニズムの研究

清光 智美(名古屋大学大学院理学研究科・助教)

細胞は自身の細胞コピーを増やすために、対称に分裂する。私は、細胞表層のAnillinの局在制御が、対称分裂の達成に重要な役割を果たすことを見出したが、その局在制御メカニズムの詳細は不明だった。本研究では、質量分析機を用いてAnillinと分裂機後期に相互作用する新規因子の同定に成功した。また染色体派生シグナル以外の仕組みでAnillinの極付近の細胞表層局在が制御されうる可能性も見出した。これらの発見を土台に今後解析を進めることで、細胞が如何に対称に分裂してコピーを増やすのか、またその破綻がどのような現象や病態につながるのかを理解することに役立つと考えられる。

学習能力を賦与する脳内分子機構:メモリープライミング

本間 光一(帝京大学薬学部・教授)

鳥類に見られる刷り込み学習には、孵化して2,3日間しか親を記憶できない臨界期があります。私たちの研究の結果、学習を始めると血中の甲状腺ホルモンが急速に脳内に流入し、そのことが引き金となって臨界期が始まることがわかりました。また学習臨界期が終わっても甲状腺ホルモンを注射することで、臨界期の扉が再び開き、学習できるようになることもわかりました。ヒトの学習にも言語の獲得や絶対音感など多くの学習に臨界期があることが知られています。甲状腺ホルモンが作用するメカニズムを利用して、ヒトの学習能力を向上させることができるようになる可能性があります。

近赤外光でコントロールする経皮ワクチンシステムの開発

新留 琢郎(熊本大学大学院自然科学研究科・教授)

ワクチンは、感染症対策はもちろんですが、がんや自己免疫疾患にも適用できる治療法となります。その投与方法は主に注射ですが、皮膚から抗原となるタンパク質を体内に入れることができれば、簡単なワクチン接種が可能になります。また、衛生面でも優れ、発展途上国における感染症対策や先進国においても、新興感染症やパンデミック対策にも有効です。この研究では、皮膚のバリアとなっている角質層のみを光照射で加熱し、物質透過性を高め、体内に抗原を安全に入れようという技術を開発しました。基礎レベルの研究ですが、実用化へ向けてこれからも研究を進めます。

がん微小環境を制御する細胞老化の分子基盤の解明

大澤 志津江(京都大学大学院生命科学研究科・講師)

ヒトのがんにおいて高頻度で観察される「がん遺伝子Rasの活性化」と「ミトコンドリア機能障害」が同時に起こると、細胞が老化し、周辺の良性腫瘍を悪性化することが、ショウジョウバエ上皮を用いた解析により明らかになりました。ショウジョウバエ上皮で明らかになったメカニズムが哺乳類でも観察されるのかを解析することで、老化した細胞をターゲットとしたような新しいがん治療法の開発につながることが期待されます。

皮膚マイクロビオームの生理学的・病理学的意義の解明

夏賀 健(北海道大学病院皮膚科・助教)

皮膚は全身を覆っており、最大の臓器の1つです。皮膚は人体の表面に位置しているため、外界とのバリアの役目を果たしていますが、それと同時に皮膚に常在菌と呼ばれる細菌叢が存在しています。私の研究では、皮膚のバリアが不足しているモデル動物を用いて、皮膚の常在菌がどのように変化するかを解析しました。解析は困難でしたが、常在菌に対する研究の一助になって人類の健康に少しでも寄与できればと考えております。

シアル酸分解酵素がB群レンサ球菌の病原性に果たす役割の解析

山口 雅也(大阪大学大学院歯学研究科・助教)

B群レンサ球菌(Streptococcus agalactiae)は新生児の細菌性髄膜炎の主な原因菌である。肺炎球菌において、シアル酸分解酵素が細菌性髄膜炎の発症に重要な役割を果たす。本研究では、B群レンサ球菌のシアル酸分解酵素様分子NonAの系統解析と機能の検討を行った。コンピュータによる進化解析と遺伝子変異株を用いた実験の結果から、NonAは進化の過程でシアル酸分解能を失い、B群レンサ球菌のヒト脳血管内皮細胞への侵入、ならびに血中での生存に寄与しないことが示唆された。また、B群レンサ球菌がシアル酸分解能を失い、莢膜にシアル酸を持つという新たな生存戦略を選択した可能性が示された。

脳腫瘍幹細胞のR-spondin-LGR5軸を標的とした腫瘍根絶技術の開発

那須 亮(京都府立医科大学大学院医学研究科・助教)

膠芽腫は成人脳腫瘍の中で最も罹患率が高い、極めて予後不良な悪性腫瘍である。本研究では、膠芽腫形成の要である癌幹細胞を標的とする治療法の開発を目指した。その結果、癌幹細胞増殖を刺激するWntシグナルを抑制する新規分子スイッチAxin1 T160リン酸化を見出した。今後は、Axin1 T160リン酸化を調節する薬の探索を行う予定である。

かたちから探る聴覚情報統合のしくみ

伊藤 哲史(福井大学医学部・助教)

私達は音の高さや音のやってくる方向などのさまざまな音についての情報を知る能力を持っています。これは脳のさまざまな領域で音情報の分析を行い、分析された情報を統合することによってなされていると考えられていますが、情報の統合についてはあまりよくわかっていません。この研究では、情報統合が初めて行われる下丘という脳領域の神経回路がさまざまな音情報をどのように統合して表現するかについて、機能形態学の手法を用いて調べました。

新規輸送キャリアー(CARTS)によるゴルジ体から細胞膜へのタンパク質輸送機構

若菜 裕一(東京薬科大学生命科学部・助教)

種々のサイトカインやホルモンは、ゴルジ体で輸送小胞に選択的に取り込まれて細胞膜へと運ばれ分泌される。輸送小胞の形成には様々な脂質が関与するが、脂質を適切な場所に適切なタイミングで供給する仕組みは明らかになっていなかった。私達の研究成果は、小胞体膜タンパク質VAPが、小胞体 - ゴルジ体接触部位での脂質輸送を介してゴルジ体からの輸送小胞形成を制御することを示唆している。このことはゴルジ体での輸送小胞形成が、別のオルガネラである小胞体によって直接的に調節されていることを意味し、小胞輸送研究に新たなパラダイムを創出するものである。また、この成果は小胞体の役割がこれまで考えられていた以上に広範囲に渡ることを示唆しており、オルガネラ間の協調的な制御機構の重要性を示している。

多発性骨髄腫の微小環境における膜型マトリクスメタロプロテアーゼに関する研究

ベアーテ ハイジッヒ(東京大学医科学研究所・准教授)

最近の国立がんセンターの報告では、白血病、リンパ腫や多発性骨髄腫といった血液がんは、五年生存率は未だ約40% と、がん全体の平均を下回っており、この背景には、血液がんの再発あるいは治療抵抗性のメカニズムについて、不明な点が多いことが挙げられます。本研究は、こうした血液がんの病態において、不明な点の多い、各種プロテアーゼ群の機能解析を主目的としており、これを基礎とした新しい分子療法開発の基盤形成までをその目的の範疇としております。本研究成果が、近い将来、血液がんに対するトランスレーショナルリサーチへの展開を経て、社会貢献の一環となりますよう、研究者一同、これからも日々努力する所存でございます。

新規アディポサイトカインの心臓病における役割の解明

大内 乗有(名古屋大学大学院医学系研究科・寄附講座教授)

我が国において、心血管病は主要な死因の一つです。肥満は虚血性心疾患を代表とする心臓病の発症に関わる重要な因子ですが、その詳しい発症機序については明らかになっていません。CTRP9は肥満状態で血中濃度が低下する分子である。本研究ではマウスを用いた解析でCTRP9が心臓病に対して保護作用を有することが明らかとなりました。肥満におけるCTRP9 の低下が心臓病の悪化につながる可能性が考えられ、CTRP9を増加させる治療法は心臓病に効果的である可能性が示唆されました。

効率的な体内生存能を有する遺伝子改変T細胞を用いたがん免疫療法の開発

玉田 耕治(山口大学大学院医学系研究科・教授)

2015年現在、日本人の3人に1人はがんで死亡しており、効果的な新規がん治療法の開発は我が国にとって喫緊の課題といえる。特に、外科療法、化学療法、放射線療法といった標準治療の枠を超えるアプローチとしてがん免疫療法の開発が期待されている。本研究課題では、がんに対する傷害活性を有することが知られているTリンパ球を遺伝子改変することで、さらに強力な治療効果を発揮するがん免疫療法の基盤的研究を実施した。我々の開発した治療技術が今後のがん治療に応用されることが期待される。

海洋産マクロリト?、ヒ?セリンク?ヒ?アサイト?のアホ?トーシス誘導機構

末永 聖武(慶應義塾大学理工学部・准教授)

海洋シアノバクテリアから、新しいビセリングビアサイド類縁物質を発見し、その化学構造を明らかにした。これらの生物活性を評価したところ、腫瘍細胞にアポトーシス(カスパーゼ依存的な細胞死)を誘導した。さらに細胞内カルシウム濃度を上昇させる作用も示した。このことに着目し、小胞体カルシウムポンプSERCAに対する阻害活性を評価したところ、いくつかの誘導体が低濃度で顕著なSERCA阻害活性を示した。発見した物質は抗がん剤やSERCAが関係する病気の治療薬へつながる可能性がある。

成体幹細胞を制御するWnt3因子の機能解析

桑原 知子(産業技術総合研究所幹細胞工学研究センター・主任研究員)

大人の体内に存在する幹細胞のうち、脳内の神経幹細胞は継続的な神経新生にとって非常に重要な役割を持っている。幹細胞の自己複製・分化におけるWnt3 因子の持つ役割と、「運動」による成体組織の活性化には密接なつながりがあることを、我々は本研究で明らかにした。様々な種類の運動が、機能が衰えた幹細胞の機能そのものを高める機序が明らかになると、サルコペニアや神経疾患の進行状態でも幹細胞の機能の変化を先立って効率よく起こす施術の探索も可能になるのではないかと考えており、そもそもの予防法の開発にもつながる意義がある。

新規受精調節因子の機能解析

三輪 尚史(東邦大学医学部・准教授)

受精の成立は、精子と卵の適切な相互作用に始まります。したがって、精子と卵の相互作用の研究は、従来より生殖科学の主要なテーマの一つです。本研究では、受賞者が同定した新規受精調節タンパク質ダイカルシンがどのように受精調節作用を現すのかに注目し、その一端を分子レベルで明らかにしました。ここで得られました知見を応用することにより、生殖補助医療や畜産動物繁殖において新しい技術の開発に繋げたいと考えています。

ヘパリン‐コラーゲンコンジュゲートを用いた移植用管腔構造体の開発

井嶋 博之(九州大学大学院工学研究院・教授)

体内における物質輸送器官としての管腔構造体は重要である。血液が流れる血管や胆汁が流れる胆管がその例である。本研究では機能性管腔構造体の開発とその有効性評価を目的とした。コラーゲンとヘパリンを主な材料として機能性管腔構造体を作製した。この構造体は血栓形成防止、さらには各種増殖因子固定化による細胞増殖と内皮化促進を実現できた。また、繊維強化技術を組み合わせることで実使用に耐える強度を有する構造体開発に成功した。今後付与する機能性の最適化等が必要ではあるが、新たな再生医療技術として臨床への展開が期待できる機能性管腔構造体の開発に成功した。

姉妹染色体動態を制御するノンコーディングRNA-タンパク間相互作用の解析

井手上 賢(熊本大学大学院自然科学研究科・助教)

本研究では、ヒトの細胞分裂において、セントロメアから出て来るノンコーディングRNAが、姉妹染色分体の制御を通して、染色体分離の過程をコントロールする仕組みを明らかにした。セントロメアRNAを破壊した細胞は、染色体分離が異常になるが、これは分裂時における姉妹染色文体の形状異常に原因があることを示した。このRNAにはRBMX、Aurora Bといった因子が結合し、姉妹染色文体の制御に関わっているが、RNAの破壊によりそれが不能になることを示した。タンパク質による制御が中心に考えられてきたこれらの機構にRNAが重要な働きをすることを示す知見である。

プリン作動性P2Y6受容体の作動機構の解析と心不全治療への応用

西田 基宏(岡崎統合バイオサイエンスセンター兼生理学研究所・教授)

アンジオテンシン II(Ang II)は高血圧の原因物質として注目されているが、そもそも発生時における血管の新生や成熟にも深く関わる重要な生理的活性物質である。私たちは、プリン作動性P2Y6受容体という炎症誘導性の受容体が加齢に伴って発現増加することでAng II受容体とヘテロ2量体を形成し、Ang IIによる高血圧発症のリスクを増大させる要因となる可能性を新たに見出した。P2Y6受容体阻害化合物である MRS2578が Ang II受容体とP2Y6受容体との相互作用を軽減し、Ang II誘発性高血圧を軽減したことから、P2Y6受容体を標的とする薬が副作用の少ない新たな高血圧治療薬となる可能性が期待される。

間葉系幹細胞の創薬ターゲットとしての可能性

宝田 剛志(金沢大学医薬保健研究域薬学系・助教)

間葉系幹細胞 (MSC) は、自己複製能と間葉系細胞への多分化能を有する幹細胞です。同幹細胞に由来する骨芽細胞は、骨密度恒常性の維持を担うとともに、骨粗鬆症をはじめとする骨代謝性疾患の病態発症に関与します。また、脂肪細胞は脂肪組織を構成し、肥満や糖尿病等の生活習慣病と密接に関連しています。この研究で注目するRunx2は、MSCから骨芽細胞への唯一無二の必須転写制御因子です。我々が開発したRunx2floxマウスを使用して、「個体レベル」でのMSCに発現するRunx2の役割や、Runx2によるMSCの動態制御機構(どんなときに増殖し、分化するのか?)を分子レベルで明らかとすることは、従来分かっていなかった個体レベルでのMSCの実態解明につながることが期待できると考えました。私は、Runx2floxマウスと各細胞種特異的な Creラインを使用することで、骨芽細胞分化系譜においてRunx2は、Prx1+Sca1+共陽性MSCから、それに由来するOsterix陽性骨芽細胞前駆細胞の段階において機能的に重要であることを明らかとしました。本研究成果を通じて、生物学的特徴づけされたMSCの生理的・病態生理的重要性を明らかとし、私が長年培ってきたMSCのRunx2機能制御に関する研究成果を、本研究課題により得られた研究成果にフィードバックさせることで、新規概念に基づいたMSC創薬・MSC再生医療を展開していくことが目標です。

新たな細胞死様式である細胞脱落の分子機構の解明

川根 公樹(京都大学大学院医学研究科・特定助教)

腸管は食物の消化・吸収を担うだけでなく、代謝、免疫など生体全体の恒常性や個体の寿命にも重要な役割を果たしていることが近年明らかになりつつあります。すなわち腸管の恒常性の破綻は、腸管での炎症、感染、癌などをひきおこすのみならず全身性の代謝疾患、肥満、他臓器における癌などにも関与することが報告されています。これを踏まえ本研究は、腸管の恒常性の理解を目的とし、この問題に、腸管上皮のターンオーバーにおける細胞死(細胞脱落)という独自の視点から迫ります。上皮細胞は、組織から剥離、離脱してその生涯を閉じます。この過程で細胞は、隣接細胞によって組織外へ押し出され殺されます。この未解明の終焉様式の分子機構を明らかにし、その破綻との関連が予想される各種疾患の治療法開発へ新たな一面から道を拓くことを目指しています。

分泌型リソソームの小胞輸送を制御する新規シグナルネットワークの解明

福井 宣規(九州大学生体防御医学研究所・教授)

マスト細胞は、アレルギー反応を引き起こす IgE 抗体の受容体である FcεRI を発現しており、抗原と IgE 抗体が結合すると、細胞内の分泌顆粒が細胞表面へ輸送され、顆粒の中に含まれるヒスタミンなどの化学物質が放出されます。本研究で私達は、マスト細胞に発現している DOCK5というタンパク質に注目し、そのアレルギー反応における役割を解析しました。DOCK5 が発現できないように遺伝子操作したマウスでは、マスト細胞の脱顆粒反応が障害されており、その結果アレルギー反応が著しく抑制されることを見いだしました。さらに DOCK5 が脱顆粒反応を制御するメカニズムを詳しく調べたところ、従来知られていた働きとは異なる機序で DOCK5 が作用し、微小管の動きをコントロールすることで、脱顆粒反応を制御していることを突き止めました。現在、アレルギー疾患の治療薬としてヒスタミンの働きを抑える薬剤が使われていますが、DOCK5 はヒスタミンの放出そのものに関わっているため、アレルギー反応を根元から断つための新たな創薬標的になることが期待されます。

ES細胞多能性制御ネットワークの遺伝学的解析

堀江 恭二(奈良県立医科大学医学部・教授)

ES/iPS細胞は、再生医療への応用が期待されていますが、安全かつ有効な応用を達成するには、多能性に関する基礎的理解を深める必要があります。細胞の多能性は、様々な遺伝子が相互作用することで成り立っています。近年、ES/iPS細胞の遺伝子を改変する技術が進展し、個々の遺伝子機能については膨大な知見が蓄積しつつありますが、複数の遺伝子の相互作用を解析する技術は立ち遅れています。私どもは本研究で、遺伝子の相互作用を解析する手法の開発に取り組みました。この手法をもとにして、今後は、再生医療へ貢献できる研究を展開したいと考えています。

卵細胞における中心体非依存的な紡錘体構築メカニズムの解明

杉本 亜砂子(東北大学大学院生命科学研究科・教授)

減数分裂は、生殖細胞を作るための特殊な細胞分裂様式ですが、そのしくみについては不明な点が多く残されています。本研究では、線虫C.elegansをモデル系として、雌の減数分裂期の紡錘体形成メカニズムについて解析しました。その結果、Aurora A(AIR-1)というタンパク質リン酸化酵素が、微小管を安定化することにより減数分裂期紡錘体形成に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。Aurora Aは進化的に保存されていることから、Aurora Aが普遍的に減数分裂期紡錘体形成に関与している可能性が考えられます。

幹細胞の恒常性を制御する糖鎖探索とその機能解析

豊田 雅士(東京都健康長寿医療センター研究所・研究副部長)

間葉系幹細胞は再生医療の細胞ソースとして最も臨床研究が進んでいるが、その評価は曖昧である。細胞を増やす過程でおこる細胞老化は、細胞機能に影響し移植後の有効性にも影響してくる。そこで細胞老化過程を細胞膜上にある糖鎖を使って明示するとともに、加齢に伴う個体老化との相関性について検討した。その結果細胞老化に伴い一定の糖鎖構造が変化していること、またその糖鎖プロファイが由来する組織年齢に応じた変化を起こすことが示された。幹細胞移植に必要な細胞数を得ることが可能かの判断の指標となるばかりか、移植後の有効性を見極めることが可能となることが示唆された。

時期特異的なカルシニューリン機能制御か?もたらす統合失調症様表現型の同定

宮川 剛(藤田保健衛生大学総合医科学研究所・教授)

統合失調症は、遺伝的・環境的要因が関与する多因子疾患と考えられていますが、その病因は未だに明らかにされていません。これまでに我々は、カルシニューリン(CN)というタンパクが脳で機能低下を起こすと統合失調症に似た行動や脳内の様々な異常が生じることを、マウスにおいて発見しています。本研究では、脳部位・時期特異的にCNの活性を操作可能なマウスを作製し、発達段階や成熟後のCNの活性がこうした異常と関連しているのかについて検討を進めています。これまでに、成熟後のCNの活性低下が、特定の統合失調症様の行動異常に関与している可能性があることなどが明らかになってきました。

二酸化炭素を原料とする新規環境調和型両親媒性グラフト共重合体による分子集合体の構築

本多 智(東京理科大学工学部・助教)

CO2を原料とするポリカーボネート(PC)の合成は環境調和型材料として期待される。しかし、PCのかたちを組換える研究展開には、ほとんど進展がみられない。高分子のかたちの組換えは、組成や分子量に手を加えることなく物性を操る方策として期待され、PCのかたちを組換えることは急務であった。本研究では、CO2を原料に櫛型に分岐したグラフト共重合体を合成することに成功した。また、CO2由来グラフト共重合体一分子を原子間力顕微鏡によって観察し、一分子が楕円状のナノ粒子として振舞うことを突き止めた。さらに、このグラフト共重合体は比較的低温で熱分解したことから、熱分解性ナノ粒子としての様々な応用を期待できる結果となった。

肝細胞癌再発を制御するエクソソーム内マイクロRNAの同定と革新的な分子標的治療の開発

杉町 圭史(九州大学病院別府病院外科・診療准教授)

現在の臨床において、肝癌において肝移植術後の再発や予後を予測するために画像による腫瘍因子や血清の腫瘍マーカー(血清AFP値、PIVKAII値)が用いられている。従来のバイオマーカーと同じく、エクソソームマイクロRNAは血液中で安定して存在し、比較的簡便に定量することができる。この研究により、血漿を循環するエクソソーム内マイクロRNAは肝癌の再発を予測する重要なバイオマーカーとなりうるという新たな知見が示された。

分裂期染色体におけるサブドメイン特異的タンパク質翻訳後修飾のプロテオミクス解析

太田 信哉(高知大学教育研究部・テニュアトラック特任助教)

染色体に結合しているタンパク質の修飾と細胞周期の相関関係を理解することは、そこに収められている遺伝子情報の発現がどのように制御されているのか理解する上で非常に意義があります。質量分析を応用することで、未知のタンパク質修飾も明らかになりつつあり、これまで以上に詳細に生物の恒常性メカニズムを理解することができます。

細菌リポタンパク質の翻訳後修飾過程の解明

黒川 健児(長崎国際大学薬学部・准教授)

細菌の細胞膜には、リポタンパク質という脂肪酸と結合した特殊なタンパク質の一群がある。リポタンパク質は栄養分の取り込みや、細菌表層の構造形成に重要な働きをしている。その脂肪酸とタンパク質の結合部分は、ヒトの免疫系が体内に侵入してきた細菌を見つける目印として使う特殊な構造をしており、この構造を認識すると細菌を排除する仕組みが働き出す。私達は、黄色ブドウ球菌やその近縁菌のリポタンパク質の特殊構造が、新しい構造であることを見つけた。この研究では、特殊構造をつくる仕組みを明らかにする研究を行った。鍵となる酵素は発見できなかったが、候補タンパク質を複数同定した。さらなる研究が必要である。

医薬品合成を指向した触媒的不斉トリフルオロメチル化の開発研究

濱島 義隆(静岡県立大学薬学部・教授)

医薬品の約20%にフッ素が含まれるように、フッ素は医薬化学研究において重要な位置づけがされています。それはフッ素を分子に導入することによって薬効等が改善されることがよくあるからです。そのフッ素を含む官能基の中で、最近注目されているものの代表格の一つがトリフルオロメチル基(CF3基)です。しかしながら、現在でもCF3基を自在に導入することはできません。そこで我々のグループでは新たなCF3基を持った分子群を効率的に作る方法論を開発しています。本研究はその一環で、今回これまでなかなか作ることができなかった分子の新しい合成法の開発に成功しました。

Kitチロシンキナーゼの細胞内ダイナミクスと腫瘍化シグナリング ? マスト細胞腫瘍および消化管間質腫瘍の自律増殖機構の解明 ?

小幡 裕希(東京理科大学生命医科学研究所・助教)

Kitチロシンキナーゼは、免疫を司るマスト細胞や消化管運動を担うカハール介在細胞の分化・増殖において中心的役割を果たします。それら細胞のKitが変異して恒常的に活性化すると、マスト細胞腫,消化管間質細胞腫に繋がることは良く知られていますが、細胞内で「いつ・どこで」悪さをしているかがブラックボックスに包まれていました。私共は、Kit変異体がエンドリソソーム・小胞体といった細胞内小器官で増殖シグナルを発信し、マスト細胞をがん化させることを見出しました。現在、他のがんにおいても同様の仕組みが働いているかを検討中です。がん化シグナリングの場が理解できたことにより、そこを標的とした治療戦術の構築へ展開したいと考えています。