受賞者コメント

成果報告によせて - 2013年度受賞者から

(受付順、敬称略)

化学遺伝学アプローチによるDNA修復マルチパスウェー解析

廣田 耕志(首都大学東京理工学研究科・教授)

本研究では、ゲノムメインテナンスにおける様々な経路間の関係を試験し、お互いに相補的となる経路の関係の解明を行いました。ガン細胞DNA修復経路が一般的に減弱しており、減弱経路と相補的関係にある経路を阻害できれば、副作用のない新しい薬剤治療が可能となります。本研究ではさらに、このような阻害化合物の探索プラットフォームを構築し、治療に使える候補化合物を複数得ました。本研究の成果が、今後の新たなガン治療に生かされ、ガンを制圧するための一助となれば幸いです。

複雑な生命系に利用できるナノ相関顕微鏡の開発

島袋 勝弥(宇部工業高等専門学校物質工学科・講師)

生物の体の中には無数のタンパク質が詰まっています。このタンパク質が共演することで細胞が分裂できたり、動いたりすることができます。これまでの実験技術はある特定のタンパク質を取り出して調べることが主でした。しかし、これではタンパク質の共演は分かりません。そこで、我々はナノ相関顕微鏡という方法を作り出し、タンパク質の共演を調べる実験系を立ち上げました。

誘導型転写因子NF-κBのp65サブユニット蛋白と相互作用する宿主因子の同定と、蛋白分子間相互作用(PPI)を標的とする新たな悪性腫瘍に対する治療戦略

岡本 尚(名古屋市立大学大学院医学研究科・教授)

この研究はがん・白血病が多くの炎症性疾患と共通に持つ分子基盤である転写制御因子のNF-kBという分子に注目して進めています。生体内のどのような分子も生物学的活性を発揮するためには別の分子と特異的に結合し作用を及ぼし合う必要があります。我々はNF-kB分子と結合する分子を新たに7種類発見し、その数は増え続けています。また、構造生物学や計算化学を使ってこれらの相互作用する局面の構造を解析し、効率よく特異的な薬剤の開発にも取り組んでいます。

褐色脂肪組織機能不全に伴う骨量減少分子機構の解明:骨粗鬆症新規治療戦略としての褐色脂肪細胞移植の有効性の検討

川井 正信(大阪府立母子保健総合医療センター研究所・主任研究員)

骨粗鬆症の予防・治療は、非常に重要な医学的課題です。この課題を克服するには、骨粗鬆症の発症機序を充分に解明する必要があります。本研究課題では、褐色脂肪組織に注目し、その機能低下が骨粗鬆症の原因となる可能性を示しました。本研究結果から得られた知見は、褐色脂肪組織の機能改善が、骨粗鬆症の治療標的になりうることを示すものであり、健康長寿社会の実現に資する結果であると思われます。

Sema3E-PlexinD1シグナルによる新生ニューロンの移動停止位置の制御機構

澤田 雅人(名古屋市立大学大学院医学研究科・特任助教)

近年の研究で、生後の脳にも神経幹細胞が存在し、たえず新生ニューロンを産生していることが分かってきた。産生された新生ニューロンは、脳内を遠くまで移動し、適切な場所で移動を停止して成熟ニューロンへと分化する。本研究では、移動中の新生ニューロンの「かたち」を調節することが、脳内における移動停止位置を決めることを見出した。本研究結果は、脳がつくられるしくみを解明するだけでなく、脳傷害後に再生するニューロンを脳内で適切に配置するメカニズムとして、中枢神経系の再生医療に貢献する可能性がある。

サリチル酸で誘導される植物のウイルス抵抗性の分子機構

中原 健二(北海道大学大学院農学研究院・講師)

動くことの出来ない植物は、病原体への暴露から簡単に逃れることは出来ないことから、自然免疫と呼ばれる、予め備わった防御機構が発達している。その制御に植物ホルモン、サリチル酸が主要な役割を果たす。例えば、一度病原体の攻撃をうけた植物では、サリチル酸が全身で蓄積し、次の病原体の攻撃に対し、より強い防御反応で病原体の感染を防ぐ。しかしながら、なぜ、サリチル酸が蓄積するのか、なぜより強い防御反応を示すのか分かっていなかった。本研究で、カルモジュリン様タンパクrgs-CaMが関わっていることを証明し、その主要なメカニズムを明らかにすることが出来た。

ミトコンドリアのストレス応答を担うリン酸化シグナルの解明

武田 弘資(長崎大学薬学部・教授)

ミトコンドリアは、細胞のエネルギー産生を担う細胞内小器官として古くから研究されてきましたが、近年、細胞内代謝にとどまらず、細胞の生死の制御や病原体感染応答などにおいても、きわめて多彩な機能を持つことが分かってきました。本研究では、そのような機能の制御に働く新たなタンパク質に注目して研究を進めることで、ミトコンドリアの機能がどのような仕組みで調節されているか、ミトコンドリアがどのように細胞のストレス応答に関わるのかの一端が明らかとなってきました。今後はそのような機構と様々な疾患との関連についても探って行きたいと考えています。

慢性的な低酸素環境が引き起こすがん悪性化の分子機構の解明

中山 恒(東京医科歯科大学難治疾患研究所・准教授)

がんは、がん化した細胞が無制限に増殖をし続けた結果として生じる病気です。がんが進行し、悪性化していく過程では、がん細胞そのものが保持する増殖能に加えて、がん細胞をとりまく体内の微小環境(酸素、栄養、pH等)も重要な要素となります。本研究は、そのような微小環境のうち「酸素の低い状態(低酸素)」に着目して、がんが低酸素環境に適応して、増悪化していく分子機構を明らかにすることをめざして実施しました。その結果明らかとなった慢性期低酸素下での遺伝子発現を調節するメカニズムは、がんの低酸素環境適応能力を阻害する新しいがん抑制方法の開発に結びつくことが期待されます。

形質膜タンパク質品質管理に関わるユビキチンプロテアーゼの同定

沖米田 司(関西学院大学理工学部・准教授)

細胞表面に存在する構造異常タンパク質はユビキチン化を受け、形質膜から除去されます。この形質膜タンパク質品質管理機構は、嚢胞性線維症など様々な病態に関与することが知られています。私たちは阻害剤スクリーニングにより、形質膜に存在する異常タンパク質の分解を制御する脱ユビキチン化酵素を同定しました。今後、形質膜異常タンパク質のユビキチン化制御機構を明らかにすることで、様々な病因の理解や治療法開発に貢献することが期待されます。

触媒的不斉合成を基軸とした新しい医薬リードの創製:WecAを阻害する抗超多剤耐性結核剤,およびがん-間質相互作用に働く抗がん剤

渡辺 匠(微生物化学研究会微生物化学研究所・主席研究員)

既存の抗結核剤が無効な超多剤耐性結核菌に有効な物質,および制圧への途半ばであるがんに対し新たなメカニズムで奏功する化合物の合成を行うことによる,画期的新薬開発の基盤構築を目的とした研究である.前者としてはリード候補,カプラザマイシン類の効率的合成の達成と天然物由来の半合成法では入手困難な誘導体ライブラリ構築への応用を図り,後者としては「正常細胞を標的とした抗がん剤」のリードとなり得るロイシノスタチンAの合成法の開発と,当該生物活性に必要な構造要件の同定に向けた知見の蓄積を得た.

ピリドン類の位置選択的直接官能基化法の開発に基づく医薬品候補化合物の創出

平野 康次(大阪大学大学院工学研究科・助教)

ピリドンは数多くの生物活性化合物や医薬品に含まれているため、ピリドン環の効率的な修飾を可能にする新手法の開発は合成化学的な観点からのみでなく、新たな医薬品創出という視点からも重要な研究課題です。しかし、ピリドンには最大4カ所の反応点が存在し、その反応位置を制御することは容易ではありません。我々は、着脱容易な配向性官能基と安価な銅の触媒作用を組み合わせることでこの課題を克服し、最も反応性が乏しいとされるC6位での修飾に成功しました。本手法を用いることで、ピリドンを基盤とする新たな医薬品の創出が加速できると期待されます。

対称分裂を保障する非対称な細胞膜伸長メカニズムの研究

清光 智美(名古屋大学大学院理学研究科・助教)

細胞は自身の細胞コピーを増やすために、対称に分裂する。私は、細胞表層のAnillinの局在制御が、対称分裂の達成に重要な役割を果たすことを見出したが、その局在制御メカニズムの詳細は不明だった。本研究では、質量分析機を用いてAnillinと分裂機後期に相互作用する新規因子の同定に成功した。また染色体派生シグナル以外の仕組みでAnillinの極付近の細胞表層局在が制御されうる可能性も見出した。これらの発見を土台に今後解析を進めることで、細胞が如何に対称に分裂してコピーを増やすのか、またその破綻がどのような現象や病態につながるのかを理解することに役立つと考えられる。

学習能力を賦与する脳内分子機構:メモリープライミング

本間 光一(帝京大学薬学部・教授)

鳥類に見られる刷り込み学習には、孵化して2,3日間しか親を記憶できない臨界期があります。私たちの研究の結果、学習を始めると血中の甲状腺ホルモンが急速に脳内に流入し、そのことが引き金となって臨界期が始まることがわかりました。また学習臨界期が終わっても甲状腺ホルモンを注射することで、臨界期の扉が再び開き、学習できるようになることもわかりました。ヒトの学習にも言語の獲得や絶対音感など多くの学習に臨界期があることが知られています。甲状腺ホルモンが作用するメカニズムを利用して、ヒトの学習能力を向上させることができるようになる可能性があります。

近赤外光でコントロールする経皮ワクチンシステムの開発

新留 琢郎(熊本大学大学院自然科学研究科・教授)

ワクチンは、感染症対策はもちろんですが、がんや自己免疫疾患にも適用できる治療法となります。その投与方法は主に注射ですが、皮膚から抗原となるタンパク質を体内に入れることができれば、簡単なワクチン接種が可能になります。また、衛生面でも優れ、発展途上国における感染症対策や先進国においても、新興感染症やパンデミック対策にも有効です。この研究では、皮膚のバリアとなっている角質層のみを光照射で加熱し、物質透過性を高め、体内に抗原を安全に入れようという技術を開発しました。基礎レベルの研究ですが、実用化へ向けてこれからも研究を進めます。

がん微小環境を制御する細胞老化の分子基盤の解明

大澤 志津江(京都大学大学院生命科学研究科・講師)

ヒトのがんにおいて高頻度で観察される「がん遺伝子Rasの活性化」と「ミトコンドリア機能障害」が同時に起こると、細胞が老化し、周辺の良性腫瘍を悪性化することが、ショウジョウバエ上皮を用いた解析により明らかになりました。ショウジョウバエ上皮で明らかになったメカニズムが哺乳類でも観察されるのかを解析することで、老化した細胞をターゲットとしたような新しいがん治療法の開発につながることが期待されます。

皮膚マイクロビオームの生理学的・病理学的意義の解明

夏賀 健(北海道大学病院皮膚科・助教)

皮膚は全身を覆っており、最大の臓器の1つです。皮膚は人体の表面に位置しているため、外界とのバリアの役目を果たしていますが、それと同時に皮膚に常在菌と呼ばれる細菌叢が存在しています。私の研究では、皮膚のバリアが不足しているモデル動物を用いて、皮膚の常在菌がどのように変化するかを解析しました。解析は困難でしたが、常在菌に対する研究の一助になって人類の健康に少しでも寄与できればと考えております。

シアル酸分解酵素がB群レンサ球菌の病原性に果たす役割の解析

山口 雅也(大阪大学大学院歯学研究科・助教)

B群レンサ球菌(Streptococcus agalactiae)は新生児の細菌性髄膜炎の主な原因菌である。肺炎球菌において、シアル酸分解酵素が細菌性髄膜炎の発症に重要な役割を果たす。本研究では、B群レンサ球菌のシアル酸分解酵素様分子NonAの系統解析と機能の検討を行った。コンピュータによる進化解析と遺伝子変異株を用いた実験の結果から、NonAは進化の過程でシアル酸分解能を失い、B群レンサ球菌のヒト脳血管内皮細胞への侵入、ならびに血中での生存に寄与しないことが示唆された。また、B群レンサ球菌がシアル酸分解能を失い、莢膜にシアル酸を持つという新たな生存戦略を選択した可能性が示された。

脳腫瘍幹細胞のR-spondin-LGR5軸を標的とした腫瘍根絶技術の開発

那須 亮(京都府立医科大学大学院医学研究科・助教)

膠芽腫は成人脳腫瘍の中で最も罹患率が高い、極めて予後不良な悪性腫瘍である。本研究では、膠芽腫形成の要である癌幹細胞を標的とする治療法の開発を目指した。その結果、癌幹細胞増殖を刺激するWntシグナルを抑制する新規分子スイッチAxin1 T160リン酸化を見出した。今後は、Axin1 T160リン酸化を調節する薬の探索を行う予定である。

かたちから探る聴覚情報統合のしくみ

伊藤 哲史(福井大学医学部・助教)

私達は音の高さや音のやってくる方向などのさまざまな音についての情報を知る能力を持っています。これは脳のさまざまな領域で音情報の分析を行い、分析された情報を統合することによってなされていると考えられていますが、情報の統合についてはあまりよくわかっていません。この研究では、情報統合が初めて行われる下丘という脳領域の神経回路がさまざまな音情報をどのように統合して表現するかについて、機能形態学の手法を用いて調べました。

新規輸送キャリアー(CARTS)によるゴルジ体から細胞膜へのタンパク質輸送機構

若菜 裕一(東京薬科大学生命科学部・助教)

種々のサイトカインやホルモンは、ゴルジ体で輸送小胞に選択的に取り込まれて細胞膜へと運ばれ分泌される。輸送小胞の形成には様々な脂質が関与するが、脂質を適切な場所に適切なタイミングで供給する仕組みは明らかになっていなかった。私達の研究成果は、小胞体膜タンパク質VAPが、小胞体 - ゴルジ体接触部位での脂質輸送を介してゴルジ体からの輸送小胞形成を制御することを示唆している。このことはゴルジ体での輸送小胞形成が、別のオルガネラである小胞体によって直接的に調節されていることを意味し、小胞輸送研究に新たなパラダイムを創出するものである。また、この成果は小胞体の役割がこれまで考えられていた以上に広範囲に渡ることを示唆しており、オルガネラ間の協調的な制御機構の重要性を示している。

多発性骨髄腫の微小環境における膜型マトリクスメタロプロテアーゼに関する研究

ベアーテ ハイジッヒ(東京大学医科学研究所・准教授)

最近の国立がんセンターの報告では、白血病、リンパ腫や多発性骨髄腫といった血液がんは、五年生存率は未だ約40% と、がん全体の平均を下回っており、この背景には、血液がんの再発あるいは治療抵抗性のメカニズムについて、不明な点が多いことが挙げられます。本研究は、こうした血液がんの病態において、不明な点の多い、各種プロテアーゼ群の機能解析を主目的としており、これを基礎とした新しい分子療法開発の基盤形成までをその目的の範疇としております。本研究成果が、近い将来、血液がんに対するトランスレーショナルリサーチへの展開を経て、社会貢献の一環となりますよう、研究者一同、これからも日々努力する所存でございます。

新規アディポサイトカインの心臓病における役割の解明

大内 乗有(名古屋大学大学院医学系研究科・寄附講座教授)

我が国において、心血管病は主要な死因の一つです。肥満は虚血性心疾患を代表とする心臓病の発症に関わる重要な因子ですが、その詳しい発症機序については明らかになっていません。CTRP9は肥満状態で血中濃度が低下する分子である。本研究ではマウスを用いた解析でCTRP9が心臓病に対して保護作用を有することが明らかとなりました。肥満におけるCTRP9 の低下が心臓病の悪化につながる可能性が考えられ、CTRP9を増加させる治療法は心臓病に効果的である可能性が示唆されました。

効率的な体内生存能を有する遺伝子改変T細胞を用いたがん免疫療法の開発

玉田 耕治(山口大学大学院医学系研究科・教授)

2015年現在、日本人の3人に1人はがんで死亡しており、効果的な新規がん治療法の開発は我が国にとって喫緊の課題といえる。特に、外科療法、化学療法、放射線療法といった標準治療の枠を超えるアプローチとしてがん免疫療法の開発が期待されている。本研究課題では、がんに対する傷害活性を有することが知られているTリンパ球を遺伝子改変することで、さらに強力な治療効果を発揮するがん免疫療法の基盤的研究を実施した。我々の開発した治療技術が今後のがん治療に応用されることが期待される。

海洋産マクロリト?、ヒ?セリンク?ヒ?アサイト?のアホ?トーシス誘導機構

末永 聖武(慶應義塾大学理工学部・准教授)

海洋シアノバクテリアから、新しいビセリングビアサイド類縁物質を発見し、その化学構造を明らかにした。これらの生物活性を評価したところ、腫瘍細胞にアポトーシス(カスパーゼ依存的な細胞死)を誘導した。さらに細胞内カルシウム濃度を上昇させる作用も示した。このことに着目し、小胞体カルシウムポンプSERCAに対する阻害活性を評価したところ、いくつかの誘導体が低濃度で顕著なSERCA阻害活性を示した。発見した物質は抗がん剤やSERCAが関係する病気の治療薬へつながる可能性がある。

成体幹細胞を制御するWnt3因子の機能解析

桑原 知子(産業技術総合研究所幹細胞工学研究センター・主任研究員)

大人の体内に存在する幹細胞のうち、脳内の神経幹細胞は継続的な神経新生にとって非常に重要な役割を持っている。幹細胞の自己複製・分化におけるWnt3 因子の持つ役割と、「運動」による成体組織の活性化には密接なつながりがあることを、我々は本研究で明らかにした。様々な種類の運動が、機能が衰えた幹細胞の機能そのものを高める機序が明らかになると、サルコペニアや神経疾患の進行状態でも幹細胞の機能の変化を先立って効率よく起こす施術の探索も可能になるのではないかと考えており、そもそもの予防法の開発にもつながる意義がある。

新規受精調節因子の機能解析

三輪 尚史(東邦大学医学部・准教授)

受精の成立は、精子と卵の適切な相互作用に始まります。したがって、精子と卵の相互作用の研究は、従来より生殖科学の主要なテーマの一つです。本研究では、受賞者が同定した新規受精調節タンパク質ダイカルシンがどのように受精調節作用を現すのかに注目し、その一端を分子レベルで明らかにしました。ここで得られました知見を応用することにより、生殖補助医療や畜産動物繁殖において新しい技術の開発に繋げたいと考えています。

ヘパリン‐コラーゲンコンジュゲートを用いた移植用管腔構造体の開発

井嶋 博之(九州大学大学院工学研究院・教授)

体内における物質輸送器官としての管腔構造体は重要である。血液が流れる血管や胆汁が流れる胆管がその例である。本研究では機能性管腔構造体の開発とその有効性評価を目的とした。コラーゲンとヘパリンを主な材料として機能性管腔構造体を作製した。この構造体は血栓形成防止、さらには各種増殖因子固定化による細胞増殖と内皮化促進を実現できた。また、繊維強化技術を組み合わせることで実使用に耐える強度を有する構造体開発に成功した。今後付与する機能性の最適化等が必要ではあるが、新たな再生医療技術として臨床への展開が期待できる機能性管腔構造体の開発に成功した。

姉妹染色体動態を制御するノンコーディングRNA-タンパク間相互作用の解析

井手上 賢(熊本大学大学院自然科学研究科・助教)

本研究では、ヒトの細胞分裂において、セントロメアから出て来るノンコーディングRNAが、姉妹染色分体の制御を通して、染色体分離の過程をコントロールする仕組みを明らかにした。セントロメアRNAを破壊した細胞は、染色体分離が異常になるが、これは分裂時における姉妹染色文体の形状異常に原因があることを示した。このRNAにはRBMX、Aurora Bといった因子が結合し、姉妹染色文体の制御に関わっているが、RNAの破壊によりそれが不能になることを示した。タンパク質による制御が中心に考えられてきたこれらの機構にRNAが重要な働きをすることを示す知見である。

プリン作動性P2Y6受容体の作動機構の解析と心不全治療への応用

西田 基宏(岡崎統合バイオサイエンスセンター兼生理学研究所・教授)

アンジオテンシン II(Ang II)は高血圧の原因物質として注目されているが、そもそも発生時における血管の新生や成熟にも深く関わる重要な生理的活性物質である。私たちは、プリン作動性P2Y6受容体という炎症誘導性の受容体が加齢に伴って発現増加することでAng II受容体とヘテロ2量体を形成し、Ang IIによる高血圧発症のリスクを増大させる要因となる可能性を新たに見出した。P2Y6受容体阻害化合物である MRS2578が Ang II受容体とP2Y6受容体との相互作用を軽減し、Ang II誘発性高血圧を軽減したことから、P2Y6受容体を標的とする薬が副作用の少ない新たな高血圧治療薬となる可能性が期待される。

間葉系幹細胞の創薬ターゲットとしての可能性

宝田 剛志(金沢大学医薬保健研究域薬学系・助教)

間葉系幹細胞 (MSC) は、自己複製能と間葉系細胞への多分化能を有する幹細胞です。同幹細胞に由来する骨芽細胞は、骨密度恒常性の維持を担うとともに、骨粗鬆症をはじめとする骨代謝性疾患の病態発症に関与します。また、脂肪細胞は脂肪組織を構成し、肥満や糖尿病等の生活習慣病と密接に関連しています。この研究で注目するRunx2は、MSCから骨芽細胞への唯一無二の必須転写制御因子です。我々が開発したRunx2floxマウスを使用して、「個体レベル」でのMSCに発現するRunx2の役割や、Runx2によるMSCの動態制御機構(どんなときに増殖し、分化するのか?)を分子レベルで明らかとすることは、従来分かっていなかった個体レベルでのMSCの実態解明につながることが期待できると考えました。私は、Runx2floxマウスと各細胞種特異的な Creラインを使用することで、骨芽細胞分化系譜においてRunx2は、Prx1+Sca1+共陽性MSCから、それに由来するOsterix陽性骨芽細胞前駆細胞の段階において機能的に重要であることを明らかとしました。本研究成果を通じて、生物学的特徴づけされたMSCの生理的・病態生理的重要性を明らかとし、私が長年培ってきたMSCのRunx2機能制御に関する研究成果を、本研究課題により得られた研究成果にフィードバックさせることで、新規概念に基づいたMSC創薬・MSC再生医療を展開していくことが目標です。

新たな細胞死様式である細胞脱落の分子機構の解明

川根 公樹(京都大学大学院医学研究科・特定助教)

腸管は食物の消化・吸収を担うだけでなく、代謝、免疫など生体全体の恒常性や個体の寿命にも重要な役割を果たしていることが近年明らかになりつつあります。すなわち腸管の恒常性の破綻は、腸管での炎症、感染、癌などをひきおこすのみならず全身性の代謝疾患、肥満、他臓器における癌などにも関与することが報告されています。これを踏まえ本研究は、腸管の恒常性の理解を目的とし、この問題に、腸管上皮のターンオーバーにおける細胞死(細胞脱落)という独自の視点から迫ります。上皮細胞は、組織から剥離、離脱してその生涯を閉じます。この過程で細胞は、隣接細胞によって組織外へ押し出され殺されます。この未解明の終焉様式の分子機構を明らかにし、その破綻との関連が予想される各種疾患の治療法開発へ新たな一面から道を拓くことを目指しています。

分泌型リソソームの小胞輸送を制御する新規シグナルネットワークの解明

福井 宣規(九州大学生体防御医学研究所・教授)

マスト細胞は、アレルギー反応を引き起こす IgE 抗体の受容体である FcεRI を発現しており、抗原と IgE 抗体が結合すると、細胞内の分泌顆粒が細胞表面へ輸送され、顆粒の中に含まれるヒスタミンなどの化学物質が放出されます。本研究で私達は、マスト細胞に発現している DOCK5というタンパク質に注目し、そのアレルギー反応における役割を解析しました。DOCK5 が発現できないように遺伝子操作したマウスでは、マスト細胞の脱顆粒反応が障害されており、その結果アレルギー反応が著しく抑制されることを見いだしました。さらに DOCK5 が脱顆粒反応を制御するメカニズムを詳しく調べたところ、従来知られていた働きとは異なる機序で DOCK5 が作用し、微小管の動きをコントロールすることで、脱顆粒反応を制御していることを突き止めました。現在、アレルギー疾患の治療薬としてヒスタミンの働きを抑える薬剤が使われていますが、DOCK5 はヒスタミンの放出そのものに関わっているため、アレルギー反応を根元から断つための新たな創薬標的になることが期待されます。

ES細胞多能性制御ネットワークの遺伝学的解析

堀江 恭二(奈良県立医科大学医学部・教授)

ES/iPS細胞は、再生医療への応用が期待されていますが、安全かつ有効な応用を達成するには、多能性に関する基礎的理解を深める必要があります。細胞の多能性は、様々な遺伝子が相互作用することで成り立っています。近年、ES/iPS細胞の遺伝子を改変する技術が進展し、個々の遺伝子機能については膨大な知見が蓄積しつつありますが、複数の遺伝子の相互作用を解析する技術は立ち遅れています。私どもは本研究で、遺伝子の相互作用を解析する手法の開発に取り組みました。この手法をもとにして、今後は、再生医療へ貢献できる研究を展開したいと考えています。

卵細胞における中心体非依存的な紡錘体構築メカニズムの解明

杉本 亜砂子(東北大学大学院生命科学研究科・教授)

減数分裂は、生殖細胞を作るための特殊な細胞分裂様式ですが、そのしくみについては不明な点が多く残されています。本研究では、線虫C.elegansをモデル系として、雌の減数分裂期の紡錘体形成メカニズムについて解析しました。その結果、Aurora A(AIR-1)というタンパク質リン酸化酵素が、微小管を安定化することにより減数分裂期紡錘体形成に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。Aurora Aは進化的に保存されていることから、Aurora Aが普遍的に減数分裂期紡錘体形成に関与している可能性が考えられます。

幹細胞の恒常性を制御する糖鎖探索とその機能解析

豊田 雅士(東京都健康長寿医療センター研究所・研究副部長)

間葉系幹細胞は再生医療の細胞ソースとして最も臨床研究が進んでいるが、その評価は曖昧である。細胞を増やす過程でおこる細胞老化は、細胞機能に影響し移植後の有効性にも影響してくる。そこで細胞老化過程を細胞膜上にある糖鎖を使って明示するとともに、加齢に伴う個体老化との相関性について検討した。その結果細胞老化に伴い一定の糖鎖構造が変化していること、またその糖鎖プロファイが由来する組織年齢に応じた変化を起こすことが示された。幹細胞移植に必要な細胞数を得ることが可能かの判断の指標となるばかりか、移植後の有効性を見極めることが可能となることが示唆された。

時期特異的なカルシニューリン機能制御か?もたらす統合失調症様表現型の同定

宮川 剛(藤田保健衛生大学総合医科学研究所・教授)

統合失調症は、遺伝的・環境的要因が関与する多因子疾患と考えられていますが、その病因は未だに明らかにされていません。これまでに我々は、カルシニューリン(CN)というタンパクが脳で機能低下を起こすと統合失調症に似た行動や脳内の様々な異常が生じることを、マウスにおいて発見しています。本研究では、脳部位・時期特異的にCNの活性を操作可能なマウスを作製し、発達段階や成熟後のCNの活性がこうした異常と関連しているのかについて検討を進めています。これまでに、成熟後のCNの活性低下が、特定の統合失調症様の行動異常に関与している可能性があることなどが明らかになってきました。

二酸化炭素を原料とする新規環境調和型両親媒性グラフト共重合体による分子集合体の構築

本多 智(東京理科大学工学部・助教)

CO2を原料とするポリカーボネート(PC)の合成は環境調和型材料として期待される。しかし、PCのかたちを組換える研究展開には、ほとんど進展がみられない。高分子のかたちの組換えは、組成や分子量に手を加えることなく物性を操る方策として期待され、PCのかたちを組換えることは急務であった。本研究では、CO2を原料に櫛型に分岐したグラフト共重合体を合成することに成功した。また、CO2由来グラフト共重合体一分子を原子間力顕微鏡によって観察し、一分子が楕円状のナノ粒子として振舞うことを突き止めた。さらに、このグラフト共重合体は比較的低温で熱分解したことから、熱分解性ナノ粒子としての様々な応用を期待できる結果となった。

肝細胞癌再発を制御するエクソソーム内マイクロRNAの同定と革新的な分子標的治療の開発

杉町 圭史(九州大学病院別府病院外科・診療准教授)

現在の臨床において、肝癌において肝移植術後の再発や予後を予測するために画像による腫瘍因子や血清の腫瘍マーカー(血清AFP値、PIVKAII値)が用いられている。従来のバイオマーカーと同じく、エクソソームマイクロRNAは血液中で安定して存在し、比較的簡便に定量することができる。この研究により、血漿を循環するエクソソーム内マイクロRNAは肝癌の再発を予測する重要なバイオマーカーとなりうるという新たな知見が示された。

分裂期染色体におけるサブドメイン特異的タンパク質翻訳後修飾のプロテオミクス解析

太田 信哉(高知大学教育研究部・テニュアトラック特任助教)

染色体に結合しているタンパク質の修飾と細胞周期の相関関係を理解することは、そこに収められている遺伝子情報の発現がどのように制御されているのか理解する上で非常に意義があります。質量分析を応用することで、未知のタンパク質修飾も明らかになりつつあり、これまで以上に詳細に生物の恒常性メカニズムを理解することができます。

細菌リポタンパク質の翻訳後修飾過程の解明

黒川 健児(長崎国際大学薬学部・准教授)

細菌の細胞膜には、リポタンパク質という脂肪酸と結合した特殊なタンパク質の一群がある。リポタンパク質は栄養分の取り込みや、細菌表層の構造形成に重要な働きをしている。その脂肪酸とタンパク質の結合部分は、ヒトの免疫系が体内に侵入してきた細菌を見つける目印として使う特殊な構造をしており、この構造を認識すると細菌を排除する仕組みが働き出す。私達は、黄色ブドウ球菌やその近縁菌のリポタンパク質の特殊構造が、新しい構造であることを見つけた。この研究では、特殊構造をつくる仕組みを明らかにする研究を行った。鍵となる酵素は発見できなかったが、候補タンパク質を複数同定した。さらなる研究が必要である。

医薬品合成を指向した触媒的不斉トリフルオロメチル化の開発研究

濱島 義隆(静岡県立大学薬学部・教授)

医薬品の約20%にフッ素が含まれるように、フッ素は医薬化学研究において重要な位置づけがされています。それはフッ素を分子に導入することによって薬効等が改善されることがよくあるからです。そのフッ素を含む官能基の中で、最近注目されているものの代表格の一つがトリフルオロメチル基(CF3基)です。しかしながら、現在でもCF3基を自在に導入することはできません。そこで我々のグループでは新たなCF3基を持った分子群を効率的に作る方法論を開発しています。本研究はその一環で、今回これまでなかなか作ることができなかった分子の新しい合成法の開発に成功しました。

Kitチロシンキナーゼの細胞内ダイナミクスと腫瘍化シグナリング ? マスト細胞腫瘍および消化管間質腫瘍の自律増殖機構の解明 ?

小幡 裕希(東京理科大学生命医科学研究所・助教)

Kitチロシンキナーゼは、免疫を司るマスト細胞や消化管運動を担うカハール介在細胞の分化・増殖において中心的役割を果たします。それら細胞のKitが変異して恒常的に活性化すると、マスト細胞腫,消化管間質細胞腫に繋がることは良く知られていますが、細胞内で「いつ・どこで」悪さをしているかがブラックボックスに包まれていました。私共は、Kit変異体がエンドリソソーム・小胞体といった細胞内小器官で増殖シグナルを発信し、マスト細胞をがん化させることを見出しました。現在、他のがんにおいても同様の仕組みが働いているかを検討中です。がん化シグナリングの場が理解できたことにより、そこを標的とした治療戦術の構築へ展開したいと考えています。

成果報告によせて - 2012年度受賞者から

(受付順、敬称略)

リソソーム酵素の放出による炎症の発症機構

華山力成(阪大・免疫学フロンティア研セ・特任准教授)

炎症の場でマクロファージという免疫細胞は、消化酵素を細胞外へと放出します。消化酵素の放出が過剰になると周囲の組織を破壊し、更なる炎症を惹起します。この過程は「他者融解」と呼ばれ40年程前から報告されている現象ですが、その制御機構はこれまで不明でありました。私たちはこの過程を制御する分子を最近同定しました。消化酵素の放出による他者融解は、マクロファージによる死細胞の貪食除去機構やオートファジーに続く第3の消化酵素による生体の恒常性維持機構である可能性があり、今後その生理的・病理的意義を明らかにしてゆきたいと考えております。

Rac1阻害剤は"抗がん転移剤"になりうるのか?

横山 悟(富山大・和漢医薬学総合研・助教)

日本での死因の第1位を占めているのは悪性新生物であり、その中でも現在特に多いのが肺がんである。また肺がんの一番の問題は転移であり、肺がんの摘出後の生存率を上げるためには、"抗がん転移剤"の開発が急務である。今回、治療標的として同定したRAC1の阻害剤は、肺がんの増殖の阻害のみではなく、その転移も抑える可能性がある。また、変異型EGFR阻害剤であるgefitinibが効かない肺がんにおいても、RAC1阻害剤は効果がある可能性が示され、肺がんの新規治療法となり得ると考えられる。

ヒト多能性幹細胞におけるTERT遺伝子の発現獲得機構の解析

西野光一郎(宮崎大・農・准教授)

体細胞がiPS細胞へとリプログラミングされると、細胞は無限増殖能と多分化能を獲得します。本研究では、ヒトiPS細胞が獲得する無限増殖能に関わる重要な遺伝子、TERT遺伝子が、DNAメチル化によって発現制御されていることを明らかにしました。ヒトTERT遺伝子の発現制御機構を明らかにした本研究結果は、iPS細胞を用いた再生医療、がん化のメカニズムの解明やがん化予測・予防・治療等への応用へつながる成果です。

内分泌シグナルを介した温度応答の分子機構

久原 篤(甲南大・理工・講師)

温度は、地球上で常に存在する環境情報であり、生体内の生化学反応に直結した情報である。そのため、動物は、環境温度に適応することで生存繁栄することができる。本申請者は、動物がどのように温度感知するのか、そしてどのように過去の温度情報を記憶するのかに関して、線虫C. elegansをモデル系として解析してきた(Kuhara et al., Science, 2008; Kuhara et al., Nature commun.,2011)。しかし、温度環境の変化に適応するための分子機構に関しては、依然としてブラックボックスとなっている。われわれは、シンプルな実験動物である線虫を利用し、特に分泌分子を介した温度適応に関わる遺伝子メカニズムの解明に向けて日夜解析を行っている。

複数のRab GTPaseによるインスリン顆粒の細胞内物流システム

松永耕一(群馬大・生体調節研・助教)

糖尿病は人類が抱える最も深刻な疾患の1つです。血糖値を下げるインスリンは膵β細胞内の顆粒に貯蔵され、血中のグルコース濃度を感知して分泌します。糖尿病の主な原因の1つとして、特に我が国では重要な要因になっている、β細胞の機能低下によるインスリン分泌の減少が挙げられます。しかしながら分泌の詳細なメカニズムは未だ不明な点が多く、分泌能低下の理由もよく分かっていないため、その治療戦略を立てられないのが現状です。本研究はインスリンが合成されてから分泌されるまでのメカニズムの過程の1つを分子のレベルで明らかにしました。

非天然ステロイドを基盤とする有機分子ツールの創製と生体機能制御

山下修治(東北大大学院・理・助教)

生体機能を制御する物質としてステロイドは有名であり、性ホルモンや膜脂質等、生命活動の根底に作用することが知られています。天然から得られるステロイド等を基盤として、様々な医薬品が開発され、現在、人間の社会活動を豊かにするのに貢献しています。本研究では、新しい機能を持った医薬品候補の探索を視野に入れて、天然からは得られないステロイド誘導体を人工合成することに成功しました。安価で効率的に生理活性候補を合成するために、新しい方法を開発しました。今後、薬効や毒性を評価し、有用な物質を見つけたいと考えています。

骨格筋における形質膜修復機構の分子基盤

原 雄二(東京女子医大・統合医・准教授)

カルシウムイオンは通常細胞内では非常に低濃度に保たれています。刺激により細胞内カルシウムイオンが増加すると、多彩な生理応答が引き起こされます。骨格筋では筋収縮への寄与が代表的でありますが、骨格筋自体の恒常性維持のため、様々な経路が活性化されます。その異常に伴い筋ジストロフィーをはじめとする筋疾患がもたらされると考えられています。当研究遂行により、骨格筋疾患の発症機構の解明およびその治療法開発を行っていく所存です。

ショウジョウバエ生殖細胞形成におけるゲノムワイドな転写抑制とその意義

中村 輝(理化学研・発生・再生科学総合研セ・主管研究員)

ショウジョウバエの生殖細胞形成に中心的役割を担うPgcの生理機能について解析を進めた。Pgcは生殖細胞における転写を胚発生初期に一過的に抑制する。私たちは、Pgcによる転写抑制が胚発生初期に体細胞で発現する複数のmiRNAの発現を抑えることにより、生殖細胞形成・分化に必須の機能を持つnanos mRNAのmiRNA依存的分解を防いでいることを見出した。生殖細胞におけるmiRNA経路の抑制は、脊椎動物においても報告されており、生殖細胞の特質を維持する分子機構として普遍的である可能性が考えられた。

小胞体品質管理による植物細胞膜受容体様キナーゼの機能発現機構

西川周一(新潟大・理・教授)

小胞体の品質管理機構は、合成された分泌タンパク質や細胞膜タンパク質の高次構造形成を監視し、異常タンパク質を処理する品質管理の場でもあります。小胞体品質管理で中心となるのが小胞体分子シャペロンです。本研究では、植物細胞における小胞体品質管理の主要なターゲットである細胞膜の受容体キナーゼと、異常タンパク質の選別で機能する小胞体Jタンパク質間の相互作用を解析し、小胞体Jタンパク質変異株が示す特異的な欠損は、受容体キナーゼとJタンパク質間の相互作用の特異性のためであることを示唆する結果を得ました。これは、高次構造の似たタンパク質でも分子シャペロンによる認識には特異性があることを示す例となります。

形質細胞様樹状細胞を標的とした自己免疫疾患制御手段の開発

星野克明(香川大・医・教授)

形質細胞様樹状細胞は、Toll様受容体7(TLR7)とTLR9を発現しており、その活性化により大量のⅠ型インターフェロン(IFN)を産生する特性がある。この特性は、ウイルス感染時には感染防御反応として機能するが、ある種の自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス等)では病態形成に関与している。今回我々は、転写因子Spi-Bが形質細胞様樹状細胞のⅠ型IFN産生に働く重要な分子であることを明らかにした。形質細胞様樹状細胞の特性を解明することにより、自己免疫疾患の診断や治療法の開発が進むことを期待する。

腫瘍血管内皮細胞を標的としたがんの転移制御

樋田京子(北大大学院・歯・特任准教授)

腫瘍組織ではがん細胞だけではなく間質細胞も異常性を持っていることが知られています。がんの血管も最近では正常の血管とは異なることが分かってきました。本研究では我々はがんの血管内皮細胞が分泌する分子によってがんの転移が起こりやすくなることを見出しました。がん血管の特性の解明が、新たな転移の阻害剤の開発につながる可能性があることが示されました。

ヒト体細胞から網膜視細胞へのin vitroにおける最終分化―外節のある杆体と錐体の作製-

世古裕子(国立障害者リハビリテーションセ研・研究室長)

網膜の再生研究は近年急速に進み、ES細胞やiPS細胞から網膜組織がin vitroでつくられている。一方、多能性幹細胞ではなく“体細胞”に転写因子遺伝子ミックスを導入するとiPS細胞を経ることなく必要な細胞を得ることができる“直接的分化誘導法”と呼ばれる技術も開発され、すでに心臓、膵臓、神経、血小板等がつくられている。直接的分化誘導法は、方法が確実・簡単で早く、実験を小型化できるため、巨大投資なしで巨大疾患コホート研究が可能であり、疾患モデルとしては、多能性幹細胞より優れているとも言われている。本研究は、この直接的分化誘導法で網膜視細胞を作製することを目指した研究である。ヒト皮膚線維芽細胞に転写因子遺伝子ミックスを導入することによって、光応答のある網膜視細胞様の細胞に分化誘導できることが分かった。この分化誘導技術は、遺伝性網膜変性疾患の診断、病態解明や薬剤のスクリーニング等に有用な疾患モデル作製に応用できる。

植物オルガネラのRNA編集の分子機構解明に向けたシチジンデアミナーゼ活性の同定

杉田 護(名大・遺伝子実験施・教授)

植物のミトコンドリアと葉緑体でmRNAの特定のシチジン(C)がウリジン(U)に変換される「RNA編集」という奇妙な現象が起ることが知られています。しかし、CからUへのRNA編集の生物学的な意義や分子メカニズムについてはほとんど分かっていないのが現状です。本研究では新規のRNA編集因子を3種同定するとともに、RNA編集因子のDYWドメインがCからUへのRNA編集の酵素反応を担っている可能性が高いことを初めて明らかにしました。これらの成果を基盤として、今後はエネルギー生産工場である植物オルガネラの機能とRNA編集との関係を分子レベルで解析していく予定です。

ERK5による新しいカテコールアミン類の生合成促進機構の解明

小原祐太郎(山形大・医・准教授)

私たちは以前にMAPKファミリーであるERK5が神経突起の伸展と(カテコラミンの生合成酵素の1つである)チロシン水酸化酵素の発現に必須であることを明らかにした。本研究課題では、ERK5シグナルによって遺伝子発現が上昇したp36が、チロシン水酸化酵素のユビキチン化を抑制することによってチロシン水酸化酵素タンパク質を安定化し、カテコラミンの生合成を促進していることを明らかにした。

高次な精神発達制御を司るゲノムインプリンティング遺伝子の生物学的意義と機能の解明

堀家慎一(金沢大・学際科学実験セ・准教授)

私たちの細胞の中には、母親と父親から受け継がれてきた染色体が各々1本ずつ存在します。基本的には、同じ機能を持っているのですが、ごく一部の遺伝子は、受け継がれてきた親由来に依存して機能するものが存在します。機能的に同じ遺伝子であるのに、なぜ故に親由来に依存しているのかは未だ明らかにされておりません。本研究では、それらの遺伝子の親由来を逆転させたマウスを樹立することで、その生物学的意味に迫ろうと考えました。本研究成果では、最終的な答えは出ておりませんが、今後この研究を進展させていくことでその答えを見出そうと考えております。

LIS1による細胞内ロジスティクスと滑脳症発症の関係

山田雅巳(大阪市大大学院・医・准教授)

滑脳症は、脳の「しわ」がなくなる先天性神経疾患の1つであり、臨床的には重度の精神遅滞、運動失調、てんかん発作等を主な症状とする。発症の原因は、染色体17番目にあるLis1遺伝子の変異あるいは欠損によるものである。このLIS1の機能不全が、微小管モーターである細胞質ダイニンによる輸送システムの異常から神経細胞の遊走の異常を引き起こすことで疾患の発症に至ると考えられる。本研究課題は、神経細胞の中心体近傍における細胞質ダイニンへの積み荷・積み降ろしの分子メカニズムを明らかにすることで、「細胞内物流の攪乱・破綻」から「神経細胞遊走の欠如」、さらには滑脳症発症に至るメカニズムの解明を目指した。

骨肉腫悪性化に関わるRNA結合タンパクImp3の機能解明および分子標的療法の開発

清水孝恒(星薬大・薬・准教授)

骨肉腫は若年者に多く発症する難治性の悪性腫瘍です。新規治療法の開発が急務であり、私たちは独自に樹立したマウス骨肉腫モデルを用いて克服に取り組んでいます。この度、骨肉腫悪性化に重要な因子としてmRNAに結合するタンパク「IMP3」を絞り込みました。解析の結果、がんの生体内での進展に必要なイベントに関わることが明らかとなりました。IMP3は近年、がんの予後不良因子である、との報告が相次いでおります。IMP3が制御する分子、さらにはIMP3の発現を制御する機構の解明はがんの根本治療法の開発につながると考えられ、私たちは更なる解析を進めております。

希少元素代替・削減型有機合成用金属ナノパーティクル触媒の開発

有澤光弘(北大大学院・薬・准教授)

ものづくり国ニッポンが他の国よりも有利にかつ効率よく機能性分子(医薬品・農薬・太陽電池・液晶等)を製造することができる、新しい製造技術?金属ナノ粒子触媒を開発しました。すなわち、2010年にノーベル化学賞が与えられたパラジウムカップリングでは、これまでリガンドの添加が必須と考えられてきましたが、金属ナノ粒子触媒はこれらリガンドの添加を必要とせず、目的とする化合物を安価かつ迅速に多検体製造・精製することができ、生命科学の親展に寄与することが可能です。

核膜孔複合体因子によるがん幹細胞誘導/がん悪性化過程に関わるエピジェネティクス制御機構の解明

リチャード・ウォング(金沢大・理工研究域・教授)

急性骨髄性白血病患者の白血病細胞では、核膜孔複合体タンパク質NUP98の遺伝子領域において高頻度に染色体転座が見られる。転座したNup98遺伝子とキメラ遺伝子を形成する遺伝子は20種類以上が知られているが、本研究では中でもNUP98とヒストン脱アセチル化酵素JARID1Aとのキメラ遺伝子Nup98-JARID1Aに注目し、動物核膜孔複合体タンパク質-ヒストン複合体が制御するがん化におけるエピジェネティック制御機構を解析した。本研究で白血病発症モデル動物としてNup98-JARID1Aトランスジェニックマウスを樹立できたため、今後は生体内におけるがん化におけるエピジェネティック制御機構を解明することで、白血病治療薬の開発に発展できると期待している。

プロテアソームによるタンパク質分解の人工制御

伊野部智由(富山大・先端ライフサイエンス拠点・特命助教)

我々は細胞内のタンパク質の分解を担うプロテアソームの厳密なターゲットタンパク質認識メカニズムを利用して、タンパク質濃度の人工的な制御方法の開発に取り組んでいる。特にプロテアソーム分解のシグナルとしてポリユビキチン鎖以上の重要な役割を担う変性領域に注目して、分解制御方法の開発を行っている。この方法により細胞内のタンパク質濃度の調整が可能になれば、病気の治療にも貢献できるのではないかと期待している。

DNAメチル化による粘膜治癒機構の解明

手塚裕之(東京医歯大・難治疾患研・助教)

本研究課題では、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)の寛解期における粘膜治癒機構を明らかにすることを目的とする。この目的のため、申請者は同疾患の感受性遺伝子の1つであるDNAメチル化酵素Dnmt3aに着目した。その結果、Dnmt3aはマウス大腸陰窩で恒常的に発現していることや、同発現は薬剤誘導性大腸炎の病態形成期では減少し、寛解期では回復することを見出した。これらの結果から、Dnmt3aは粘膜治癒に重要であると考え、上皮細胞のみDnmt3aを欠損するマウスに大腸炎を誘導した。その結果、Dnmt3aは粘膜治癒に必須ではないことが判明した。今後は、上記とは異なる腸炎モデルを用いて検討する予定である。

ヒト難聴から同定された新規分子TRIOBPによるアクチン束化様式と聴覚制御

北尻真一郎(京大・医・附属病院・助教)

難聴の有病率は約20%で、もっとも頻度の高い身体障害である。しかし聴覚受容の分子メカニズムには未だ不明な点が多い。内耳で音を感知するのは不動毛とよばれる構造で、これには細胞質へ伸びるアクチン束の「根」が存在する。我々は、ヒト遺伝性難聴の原因遺伝子であり、アクチンを束ねて根を形成する(Trio Binding Protein)TRIOBPという分子を同定し、その機能解析を進めている。ノックアウトマウスを使った解析からTRIOBPは根の形成に必須で、なくなると毛の剛性が低くなり、聾や難聴になることが分かった。現在、引き続きその詳細なメカニズムを解析している。内耳障害の多くは不動毛の変性により始まると考えられており、その変性を防ぐことは、難聴の治療、予防につながると期待できる。

中心体成熟不全によるがん細胞の染色体不安定性惹起メカニズムの解明

尾崎佑子(広島大・原爆放射線医科学研・博士研究員)

多くのがんにおいて、染色体の数の異常、欠失等様々な染色体の構造異常が知られていたが、近年の技術の進歩により、白血病だけではなく、多くの固形腫瘍でも染色体の数や構造の異常が発見された。これを称して「染色体不安定性」と呼ぶが、今ではそれががんの代名詞にまでなっており、発がんの原因として重要であると考えられている。本研究は、がん細胞の染色体不安定性メカニズムを明らかにし、がんの新規治療法を開発することを最終目標とした基礎医学研究である。

死細胞貪食破綻による炎症誘導のメカニズムの解明

中野裕康(順天堂大・医・准教授)

肝臓でのアポトーシス亢進マウスを用いた解析から、死んだ肝細胞の除去や細胞死後の炎症の収束には、肝臓に存在する主な食細胞と考えられてきたクッパー細胞は必須でないことが明らかとなった。また、骨髄由来の単球や好中球を薬剤投与により選択的に除去できるマウスの骨髄を移入した実験から、肝炎に伴う炎症の収束にはこれらの細胞が重要な役割を果たしていることを明らかにした。現在、そのメカニズムの解析を行っているところであるが、我々のモデルは肝死細胞から放出されるシグナルを増幅させることができることから、このマウスを用いることにより、これまで同定の困難であった死細胞放出因子を同定する上で有用なモデルである可能性が示された。

脳室下帯分裂細胞の産生と維持の分子機構

田畑秀典(愛知心身障害者コロニー発達障害研・室長)

哺乳類における大脳皮質神経細胞は脳室帯、および脳室下帯で産生されるが、霊長類では脳室下帯が著しく発達し、膨大な数の神経細胞が生み出される。マウスにも脳室下帯での神経細胞産生が少ないながら認められ、大脳外側では内側に比して多い。マウス胎仔脳におけるこのような偏りが生じるメカニズムを解明することで、ヒトが進化過程で巨大脳を獲得した理由に迫れる可能性がある。本研究課題でいくつかの有望な候補分子を得た。今後、これらの遺伝子の機能解析を通じて、ヒトの高次脳機能の源泉を探り、さらにはその機能不全による精神疾患の理解につなげたい。

ロコモーションに必要な糖タンパク質輸送系の解明

浅川和秀(国立遺伝学研・助教)

我々は、熱帯魚ゼブラフィッシュをモデルに用いて、身体の動きに異常を示す変異体を探索しました。その結果、魚類からヒトまで保存されたVIPLa遺伝子の機能が異常になった変異体では、網様体脊髄路ニューロン(RSニューロン)と呼ばれる脳のニューロンの活動が著しく低下し、ゼブラフィッシュが泳げなくなることを発見しました。VIPLaは、糖鎖が付加されたタンパク質を細胞内の適切な場所に輸送する役目を担っています。これらのことから、RSニューロンの活動に必要であり、尚かつVIPLaの輸送制御を受ける、未知の糖鎖タンパク質の存在が示唆されます。

合理的設計によるリシン脱メチル化酵素阻害薬の創製研究

鈴木孝禎(京都府医大大学院・医・教授)

リシン脱メチル化酵素であるLSD1やJMJDは、がんの増殖の原因であることが分かっています。したがって、LSD1阻害剤やJMJD阻害剤は、新規抗がん剤候補化合物として期待されています。今回、弱いLSD1阻害薬「トラニルシプロミン」をLSD1だけに運び込むドラッグデリバリー型LSD1阻害剤を設計し、合成した結果、強い抗がん活性を示すLSD1特異的阻害剤を見出しました。また、JMJDの構造情報を基にしたドラッグデザインにより、がん細胞増殖阻害活性を示すJMJD阻害剤も見出しました。これらのリシン脱メチル化酵素阻害剤を基にした新規抗がん剤の開発が期待されます。

糖尿病による老化類似作用の分子機構の解明

田口明子(宮崎大・医・准教授)

がんの診断・治療の標的となる分子同定を目指した網羅的プロテオーム解析

吉田清嗣(東京慈恵会医大・教授)

現在我が国では2人に1人の方ががんになり、3人に1人の方ががんで亡くなっています。がんを克服することは、現代医療における最大の課題となっています。本研究において、がん抑制遺伝子であるp53ががん細胞を死滅させるアポトーシスと呼ばれる仕組みを明らかにしました。p53の活性化によってある種のサイトカインが産生され、アポトーシスに関わる遺伝子の発現を調節することでこの細胞死が実行されていたのです。この発見を応用することで、新たな治療法開発につながることが期待されています。

Derlinファミリーを介した新規小胞体品質管理機構の解明

西頭英起(宮崎大・医・教授)

小胞体は分泌タンパク質や膜タンパク質といった多くのタンパク質が折り畳まれ立体構造をとる場である。しかし、様々なストレスや遺伝子変異等によりこれらのタンパク質は正常に折り畳まれず、異常タンパク質となって小胞体内に蓄積し小胞体の機能を阻害する。さらにこの蓄積が重篤化すると、糖尿病や神経変性疾患等の様々な疾患に関連する細胞死が引き起こされる。真核生物ではこのような小胞体ストレス状況から細胞を守るために、高度に保存された以下の小胞体品質管理システムが存在する。(1)小胞体に送り込まれる新規合成タンパク質を減らして小胞体の過剰な負荷を回避するための翻訳抑制機構、(2)タンパク質の折り畳み効率を上げるための小胞体シャペロンの転写活性化、(3)折り畳み異常タンパク質の蓄積を減少させるためのERからの分解機構。それらに加え近年、新規小胞体品質管理システムとしてER近傍での翻訳時分解が報告された。ER翻訳時分解とは小胞体ストレス誘導時に更なる負荷を避けるために、分泌タンパク質や膜タンパク質の新生ポリペプチド鎖が小胞体への移行を阻害され、行き場を失った新生ポリペプチド鎖がプロテアソームによって速やかに分解される機構である。これまでその分子機構はほとんど明らかになっておらず、我々はその解明を試みた。その結果、小胞体ストレスによって誘導され小胞体関連分解に関与する小胞体膜タンパク質の過剰発現により新生ポリペプチド鎖の小胞体への移行の阻害が見られた。さらに、小胞体ストレスにより小胞体膜タンパク質と新生ポリペプチド鎖複合体の会合が見られた。これらのことから、小胞体膜タンパク質はER翻訳時分解機構の最初の引き金として機能する可能性が示唆された。このような分子メカニズムは、小胞体ストレスが関与する多くの疾患の克服につながると期待される。

フロキサン構造を有するNOドナー医薬品の開発

松原亮介(神戸大大学院・理・准教授)

一酸化窒素は、生体内で様々な役割を担っている重要な分子です。一酸化窒素を好きな時に好きなだけ放出するような薬剤は、様々な病気に対する効果が期待できます。そのような薬剤を一酸化窒素ドナーと呼びます。私たちのグループでは、フロキサンという分子構造を有する新しい一酸化窒素ドナーの開発を行っております。今回のプロジェクトではその効率的な合成法の開発を行いました。今まで合成が困難であった分子を合成できるようになり、今後は医薬品となり得る分子の創製を目指していきたいと考えています。

次世代シークエンサーを応用した致死性不整脈症候群の新たな遺伝子検索アッセイの構築と個別化治療の確立

渡部 裕(新潟大・医歯学総合病院・助教)

心臓に器質的な異常を伴わない、不整脈症候群は遺伝性疾患であることが知られています。現在までに、不整脈症候群の原因となる遺伝子が多く見つかっていますが、不整脈の種類によっては大部分の症例で原因となる遺伝子が見つかりません。このため本研究では、最近開発された極めて高速な遺伝子検査法の遺伝性不整脈への応用を目的としました。我々は、遺伝性不整脈の症例において本法を用いて遺伝子検査を行い、新たな原因遺伝子の候補を複数見つけ、このような方法が有用な新しい遺伝子検査であることが示唆されました。

ニコチン受容体をターゲットとする新たな神経保護・抗炎症プロトトキシンの研究

三澤日出巳(慶応大・薬・教授)

毒蛇に噛まれたらひとたまりもありません。蛇毒にはニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に結合して筋肉の働きを麻痺させるタンパク質が含まれています。最近の研究によると、ヒトの体内にもこの蛇毒と似た構造を持つタンパク質(プロトトキシン)があり、nAChRの機能を調節していることが分かってきました。不思議なことです。一方で、nAChRは脳にも存在し、記憶や学習といった高次機能にも大切であることが分かっています。アルツハイマー病や統合失調症では、このnAChRの働きに異常が見られます。我々は、新たなプロトトキシンの発見と解析を通して、これらの病気の治療薬の創製を目指しています。

橙色二分子蛍光補完法の開発

児玉 豊(宇都宮大・バイオサイエンス教育研セ・助教)

細胞の中では、無数のタンパク質がお互いに引っ付いたり離れたり(タンパク質間相互作用)しています。タンパク質間相互作用は、生物が生きる上で大切な働きをするため、これを解析することはとても重要なことです。タンパク質間相互作用を解析する様々な技術の中でも、最近は、視覚的に見えるようにする技術が注目されています。特に、二分子蛍光補完(BiFC)法と呼ばれる技術は、その簡便さから多くの研究分野で利用されており、様々なタンパク質間相互作用が可視化されてきました。本研究課題は、新しいBiFC法の開発研究であり、細胞内で起こるタンパク質間相互作用ネットワークの全貌解明に貢献します。

Wntタンパク質の翻訳後修飾と極性化上皮細胞における分泌制御

菊池 章(阪大大学院・医・教授)

Wntは重要な細胞増殖分化因子であるために、これまでWntがどのようにして細胞機構を制御するかという点について精力的に解析され、Wntシグナルの制御機構が明らかになってきました。しかし、Wntがどのように分泌され、その方向性に意味があるのかは明らかにされてきませんでした。今回私たちは上皮細胞において、Wntの種類ごとに異なる機構で適切な方向に分泌されることを明らかにしました。さらに、その方向性が上皮細胞の性状を決定するのに重要であることも示しました。これらの研究成果は、Wntシグナルを標的とした再生研究や疾患治療研究に貢献することが期待されます。

化学ワクチンを指向した結核菌の毒性細胞壁成分の合成研究

細川誠二郎(早稲田大大学院・先進理工・准教授)

本研究は、有用な生物活性物質を手早く合成するための化学反応の研究と、それを利用したワクチンの合成研究です。今回、新しい結核ワクチンの元になると考えられる物質PDIM の骨格を合成するための新しいタイプの反応(遠隔不斉誘導型アルキル化反応)を発見しました。また、その類縁反応として遠隔不斉誘導型アシル化反応も発見し、その反応を使って抗生物質カフレフンジンの短工程合成に成功しました。

アザスピロ構造を有するアントラサイクリン系抗がん抗生物質の合成

北村 充(九州工大大学院・工・准教授)

がんは日本人の死亡原因の第1位の疾患であり、抗がん剤の開発は社会的要請が極めて高い。これまで、抗がん剤として臨床使用が承認されている治療薬の半数以上が天然由来の低分子であり、天然物はがん治療薬のシードとして非常に有用である。2002年、アントラキノンの骨格に、他の化合物では見られないピロロピロリジン骨格がL字型にスピロ結合したユニークな構造の抗がん活性を有する抗生物質コシノスタチンが単離された。本研究はコシノスタチンの全合成を試み、それを通じて種々の誘導体合成を行い、構造活性相関からがん治療薬を開発することを最終的な目標とする。本助成期間においては、通常フォトレジストにしか利用されていないジアゾナフトキノンを鍵中間体として、コシノスタチンの母核B-E環の合成に成功した。

血管内皮細胞分化決定因子の同定

神吉康晴(東大・先端科学技術研セ・特任研究員)

本研究では、再生医療の鍵を握る血管内皮細胞に焦点を当て、その分化機構を転写因子とエピゲノム修飾因子の視点から解析し、新たな分化制御因子を発見するのが目的であった。高効率の分化系を用いて、マイクロアレイとChIP-seqの結果を統合し、分化の初期に細胞の運命を決定づける因子として、Gata2・Fli1・Sox7・Sox18の4つを抽出した。この4因子で例えばiPS細胞からの内皮分化が可能であるかどうか、今後の検討課題である。

クラスⅡ型PI3キナーゼC2αによる血管形成・健全性維持の機能解明

吉岡和晃(金沢大・医薬保健・医・助教)

今回私たちは、これまで全くと言ってよいほど生理的役割が不明であったクラスⅡα型PI3キナーゼ酵素(PI3K-C2α)の遺伝子欠損マウスを用いた実験から、発生期の血管新生、生後の病的血管新生(虚血、腫瘍)および血管恒常性維持にPI3K-C2αが重要な役割を果たすことを明らかにしました。PI3K-C2α欠損マウスでは、アンジオテンシンⅡ投与に対する解離性大動脈瘤形成の発症率上昇を引き起こしました。従って、PI3K-C2αは血管形成と血管障壁の健全性において重要な役割を担っていて、血管系疾患の新しい治療標的となることが期待されます。

Ephファミリー受容体による骨ミネラリゼーションの制御機構

松尾光一(慶応大・医・教授)

骨は生命の基盤であり、力学的強度を持ち、ミネラルの代謝を担っています。骨を作る細胞は、骨芽細胞と呼ばれ、コラーゲン線維とミネラル成分とを分泌します。この骨が硬くなる「石灰化」の過程がどのように調節されているかについては不明の点が多いです。本研究では、チロシンキナーゼ型受容体の1つEphA2を欠損するマウスや、EphA2に対する阻害剤を加えた骨芽細胞では、ミネラル成分を含む基質小胞の作用で、石灰化が促進することを示すデータが得られました。